『貝殻の風景』-1
『また、逢えるよね?』
『うん…』
『あたしのコト、忘れないでね……』
『うん、忘れないよ……』
ピピッ、ピピッ、ピピッ………
規則正しく鳴る電子音が頭の芯にまで響き渡る。
「……夢、か……」
俺は音を止めると気怠い身体をのっそりと起こした。まだ6時過ぎだというのにすでに気温は高く、今日一日が暑くなるコトを予感させる。布団から起き上がり窓を開けて深呼吸すると、風に混じって磯の香りが鼻をくすぐった。
今更ながら海に来ているんだと実感する……
俺は今、サークルの合宿で海に来てる。とは言え万年貧乏サークルなうちは、のんびりと合宿を楽しむ余裕などなく二つの班に分かれて午前と午後、海の家を手伝うコトを条件にここに寝泊まりさせてもらってる。
毎年の恒例行事で、ここの親父さんともすっかり顔見知りだ。だけど俺はもっと前から親父さんを知っていたんだけれど……
今日、俺は午前の班でこれから砂浜の掃除をする。なんでも海の家を利用するお客さんが怪我をしないように、早めに掃除をするんだそうだ。
大きく伸びをして外に出ると、用具入れの中から熊手を取り出して波打ち際まで砂掻きを始めた。サクサクと人気のない砂浜を歩くとまるでプライベートビーチに来てるような気分になる。と言っても熊手を抱えたままじゃムードも何もあったもんじゃないけどな。
数十分の砂掻きで、もう全身に汗が滲んでくる。その後、約一時間かかってあらかたの作業を終えた俺は、綺麗になった浜辺に腰を降ろした。
「今年も見ちまったなぁ。」
ボソッと俺はつぶやく。
あの海の家に来ると決まって見るあの夢……
いや、想い出かな?
あの頃、中学生だった俺は家族でこの海の家に毎年来ていて、そこであの娘と出逢ったんだ。
一人、朝早く目が覚めた俺は浜辺を散歩していた。
サクサクと歩いていると、フワッ……と空を何かが横切った。何だろうと顔を上げるとつばの広い帽子が風に乗って飛んでいたんだ。
それは、まるで気持ち良さそうに空を泳ぎ、俺の傍にゆっくりと舞い降りた。
誰のだろう?
そっと帽子を拾い上げて辺りを見回すと白いワンピースを着た少女がこっちを見ている。
『これ、君の?』
そう聞くと俺を見たまま、少女は小さく頷いた。帽子に付いた砂を優しく払い落としてから渡すと彼女は小さな声でありがとうって言った。