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『貝殻の風景』
【少年/少女 恋愛小説】

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『貝殻の風景』-3

あれから五年……


その後も何度かこの海に来たけど、ついにあの娘には出逢えなかった。だけど、あの日の貝殻は今でも俺の宝物。だから潮風にも強いペンダントに入れてこの海に来る時は必ず持ってくるコトにしてるんだ。

「お隣りさん、今日も早いね。」

不意に話し掛けられて横を見ると小麦色に日焼けした女の子が笑っていた。彼女は隣りの海の家にバイトに来ている女の子で毎年、夏の間はここでバイトをしてるらしく綺麗に日焼けしている。

「そっちこそ早いな。掃除は終わったの?」
「まあね。何だかさ、早起きせずにいられないのよ。」

そんな彼女の言葉に思わず笑みが零れた。だって俺と同じなんだから……

「なあに?どうして笑ってるの?」
「いや、俺と同じだなぁって思ったからさ。」
「ふうん……どうして?」


何となく、彼女の言葉に俺は昔の想い出話しを始めた。あの頃を想い出すようにゆっくりと静かに。そんな俺の話を彼女は黙って聞いていた。

「……でさ、あの時の貝殻を今でも大切に持ってて、この海に来る時は必ず持って来るんだ。こうやってね……」

そう言って俺はペンダントのロケットを開けて、あの日の貝殻を彼女に見せた。

「あの娘、今も元気でいるのかな?でも、俺のコトなんか忘れちまってるんだろうなぁ……」
「そんなコトないよ!絶対覚えてる!だって約束したんでしょ?五年経ったって忘れるはずないよ!!」

じっと俺を見つめて彼女は言う。想い出話しをしたコトは何度かあるけど、こんな風に後押しする奴は初めてで、何だかそれが凄く嬉しかった。

「いつか逢えるかな?」

海を見つめながら俺は呟いた。

「絶対逢えるって。ひょっとして、すぐ傍にいるかもしれないよ?」

その言葉に振り返ると彼女は俺を見て嬉しそうに笑うと、ゆっくりと長い黒髪を掻き上げる。


そして……


「いつか出逢えるって信じて毎年、夏はここで過ごしてたからすっかり日焼けしちゃったのよ?」


そう言って微笑む彼女の耳にはイヤリングに付けられた、あの日の桜貝が揺れていた。


俺達の夏は、これから始まる……




END


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