Requiem〜前編〜-6
「・・・で、王妃陛下におかせられましては、今回どちら行きをご所望かな?」
おどけた口調で仰々しく一礼するセッツァーの問いかけに、
セリスは宙に視線を踊らせつつ記憶を呼び起こしていく。
「まずは・・・・旧マランダ王国跡地、それからはサマサ村、シドおじいちゃんと過ごした島、最後はコーリンゲン村ってとこかしら」
「予想はしていたが、なかなかこきつかってくれるじゃないか。代償は高いぜ」
「大丈夫よ、私の身体で払ってあげる・・・なんてね、冗談よ」
「・・・・あの時の小娘が結婚して王妃になってから世慣れしたみたいだな」
「ふふ・・・そんなとこかしらね」
セリスの傍らで舵を巧みに操る”戦友“の言葉に、セリスは内心まんざらではなかった。
改めて飛空艇の操舵に集中するセッツァーを横目に、
セリス自身は内心先程自分の口から飛び出した言葉に驚いていた。
正確には言葉そのものより、
言葉に対して違和感なく受け入れている自分自身の反応である
(不思議なものね、生き方1つで男に対する見方も変わるなんて・・・)
既に夫を持つ身でありながら、夫以外の男と関係を持ってしまったセリス。
セリスの中にはそうした自分の立場に悩み夫に対する罪悪感を覚える自分と、男達に身体を開き愛技に溺れ、背徳の感情に身を委ねる自分が同居している
(ダメなことだと分かっているんだけれど・・・・)
(でも・・・・・今“女”らしさを感じられる時が、
エドガー以外の男に身を任せている時なんて・・・皮肉なことね)
そんなセリスから見て目の前のセッツァーは、出逢った頃よりも異性としての存在感がより色濃くなっている。
まして記憶を辿っていけば、狙った獲物である女優マリアより美しい女とみなし、はっきりと求めてきた相手でもあるのだ。
(今回セッツァーに手紙を出して、墓参の旅の“足”に使おうとした時から彼のことを異性として見ていたのか・・・・・)
金髪を波打たせる程の風を全身に感じながら、
セリスは改めて自分の眼前に立つセッツァーの背中を眺めた。
昔はそこまで意識したことはなかったが、夫エドガーはじめ複数の男性を知り女として成熟しつつ年月を重ねたセリスにとって、
目の前に立つセッツァーのがっしりした背中の肉付きにどうしても男を感じてしまっている。
オペラ座の一件で女優マリアの替え玉を勤めたセリスを、
1人の美女としてストレートに求愛したのはセッツァーが最初。
ある意味、将軍セリスを真の女性に導いた最初の男でもある。
無論彼とは身体を重ねたことはない。
だがこうして久方ぶりに再会し、
二人きりの時間と空間を共有した時、
セリスの中に何か疼くものがあった。
他の男達のように、
セリスを求める欲望の炎を眼に宿らせることもなく、
今までのように誘惑じみた軽口だけを叩きセリスの願いを聞き入れてくれる大空のギャンブラーに対して────