Requiem〜前編〜-4
────ヒュン、ヒュン、ヒュン・・・・
そうこうするうちに、窓の外から懐かしいプロペラの回転音が聞こえてくる。
セリス達に直接顔を合わせることなくただ飛空艇のエンジンを始動させたことに“船長”の無言の催促を感じ、セリスそしてエドガーも思わず揃って肩を竦めた。
「流石のあいつも痺れを切らせたようだな」
「そうみたいね。・・・・あんまり待たせて機嫌を悪くしても困るから、そろそろ行くわ」
「ああ、気をつけて。あいつには気をつけろよ。まだ君に未練が残っているかもしれないからな」
「昔の話よ。私も彼も良い年なんだから」
苦笑しつつベットの上の夫に軽くキスするセリス。
夫の部屋を出てから自室に引き取り、手早くドレスを脱いで動きやすい軽装に着替える。剣を手にして部屋を出ると、心得たかのように控えていた侍女から旅行用のバックに手向け用の青池薔薇の花束を手にして階下に向かう。
名目はどうあれ、一国の王妃の泊まりがけの荷物とは思えない。もっともセリス自身が王妃の体面に堅苦しさを感じており、個人的に自由気ままな行動をするのはこれが初めてではない。
ある意味普段の外出の延長のようなものだった。
強いて今までと異なるところといえば、
行き先がフィガロ王国内又は隣接地域ではなく、
しかも飛空艇を使ってまでの世界をまたにかけたものであること。
(・・・・この旅も、今までみたいに)
胸の奥底に埋もれていた筈の欲望に、
ぽっと小さな火が灯ったのを、
セリスは感覚的に実感していた─────
§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§§