Requiem〜前編〜-3
「・・・もうっ、いい加減にしてったら!!」
流石に鬱陶しくなってきたセリスは、
ここで全身の力を使って、背後からのエドガーの束縛を強引に引き剥がし、夫の横たわるベット脇から身体を離した。
肩から息をするセリスを見上げてくるエドガーの表情は明らかに不満ありげである。
そんな視線を受け流しながら、セリスは無言で寝室の中央に据えられた椅子に腰を下ろす。
傍らの円卓には先程侍女が置いていった入れたての紅茶が湯気を漂わせている。
「・・・・・飲む?」
「そうだな、いただこうか」
うって変わって表情に冷静さを取り戻していたエドガーにセリスはフゥーッとため息をつく。
(その変わり身の早さには脱帽だわ─────)
無言で2人分のカップにそれぞれ紅茶を注いでいるセリスの横顔に、
何気ないエドガーの声がかけられた。
「しかし私が・・・・」
「・・・・え?」
「こんな様で済まないな。本来は私も同行すべきなのに、こんな様で・・・・」
出し抜けの呟きに、セリスも一瞬紅茶を注ぐ手を止めて今日の予定を頭の中に甦らせた。
「・・・・気にしないで。今回慰霊の為に所縁の場所を墓参兼ねて回るというのは、言ってみれば私事。本当のことを言うと、国王と王妃が公務でもないのに城を空けるのはどうかと思い直してたから、ある意味ちょうど良かったかもしれないわ。それに・・・・・・」
ここでセリスは言葉を切る。
カップに湯気のたつお茶を注ぎ終わっていた。
そのままセリスは窓際まで歩み寄り、眼下に広がる砂漠の上、まるてわフィガロ城に寄り添うかのようにして着陸している“飛空艇”を見下ろした。
かつて世界崩壊後、仲間と共に世界を飛び回った際の“空の足”────
「今回予約しておいたのが最高の足だからね。安全かつ早めに帰ってこれると思うわ」
“墓参”とはセリスが前々から心中に温めていたことで、セリス自身にとって所縁のある場所を回って慰霊に訪れるというもの。
ケフカ打倒直後には、セリス自身がエドガーと結婚してバタバタしていたし、何よりガストラ帝国の女将軍に対する拒否感への懸念もあって、今の今まで延び延びになっていたものだ。
そして公務に忙しい王妃セリスの時間を捻出する為には、世界に散らばる所縁の場所を努めて短期間に回ることのできる“空の足”が必要になる。
それが1ヶ月前からサウスフィガロやコーリンゲン等関係しそうな地域に手紙を送り予約し確保していた、
持ち主曰く世界最速の飛空艇“ファルコン号”というわけだった。