Requiem〜前編〜-14
「・・・・セリス?」
「 !!! 」
不意に眠っている筈の人物の声がしたことで、
セリスの呼吸は一瞬止まる。
流石に音、声そして光のない状態とはいえ、相手の眠りが深くなければ、人の気配を察知して目を覚ましてしまうだろう。
先程まで眼を閉じていた筈のセッツァーがソファの上で上体を起こし、瞳の中に恥ずかしさの色を浮かべながらセリスを見上げていた。
明るさの限られた中で眼が慣れてきたとはいえ、目の前にいるセッツァーの表情の変化ははっきりとは分からない。しかし相手の顔が見えないとはいえ、彼の熱い視線はセリスの肌を射抜くようにひしひしと感じる。
セリスは恥ずかしさで一杯になった。
「ご、ごめんなさい。起こすつもりはなかったの、それじゃ・・・・」
そう言いながら、近距離でセッツァーと向かい合っていることにいたたまれなくなったセリスがクルリと向きを変えドアの方に向かおうとした時だった。
─────ガバッ・・・・
「セリス・・・・・」
「 ?!!」
背後からセッツァーの両腕によって抱きすくめられ、
セリスは思わず息を飲んだ。
上体を裸のままで寝入っていた彼の胸がスリップの布地越しにセリスの背中に密着する。
薄い生地で編まれたスリットからでも、
相手の胸の上下や熱はひしひしと伝わってくる。
セリスより頭1つは背丈が高く、
8歳年上の筈だが未だに筋肉には衰えを感じさせない逞しさを残している。
そして彼の身体にまとわりつくように漂う、銘柄不明の煙草の香り。
これら全てがセリスにセッツァーとの一体感を実感させてくれている。
セリスの記憶の限りで、ここまでセッツァーと密着したのは最初に出逢った時。
そう、オペラ座で女優マリアの代わりにセッツァーにさらわれた時以来かもしれない。