死後の世界へようこそ-1
【死後の世界へようこそ】
−どうしてこっちの世界に来るかなあ−
真っ黒なトンネルから抜けた優子に、呆れ口調の聞き覚えのある声が聞こえた。
−えっ?ここって?あれ、悠子さんだあ!−
−何が『悠子さんだあ』よ。あなたには星司くんを任すって頼んだでしょ。あたしのところに来たらダメじゃないのよ−
−えっ、悠子さんのところって…。あっ、あたし、あのバカに刺されて。じゃあ、ここって…−
−死後の世界へようこそ。ってバカなこと言ってる場合じゃないでしょ。あの2人がヌケてるからあなたに託したんでしょうが。それなのに−
悠子のイメージが眉間に皺を寄せて頭を振った。
−えっ、じゃあ、あたし、死んじゃったってことですか?−
−こっちの世界に居るんだからそうなんでしょうね−
悠子が呆れ口調のまま言った。
−えっ?だったら、星司さんとは会えなくなるってことですか?−
優子の目が見開かれた。
−そうね。あたしもこっちの世界に来てから、星司くんに会えなくなったし−
悠子はさも当然という感じで言った。
−そんなあ−
自分の突然の死、さらに、もう星司と会えないことを実感した優子のイメージから涙が溢れ落ちた。
優子の実感を見計らったように、悠子のイメージの後ろから柔らかな光がサーッと差し込まれてきた。それは天に向かう光の道だった。
−迎えが来たみたいね。行かなきゃ−
光を背負った悠子の言葉で、どうしようもない現実を優子は覚った。自分を助けてくれた悠子の手前、暴れて見苦しい真似もしたくなかった。
−は、はい…−
光の道へと悠子が進むと、諦めた優子がそれに続いた。
−(お父さん、お母さん、ごめんなさい)−
優子の気配を感じた悠子が後ろを振り向いた。しおらしく付いてくる優子を見て、悠子はニヤリと笑った。
−どうして付いてくるのよ。あなたの帰りたい場所はあっちでしょ−
悠子が示す先が、進みかけた光の道よりも明るく輝いていた。
−えっ、あっちって…−
戸惑う優子に、悠子が悪戯っぽく言った。
−星司くんが居る場所よ−
なんて無神経なことを言うのだろう。助けられた恩義も薄れる思いだった。
−もう戻れないのに、意地悪言わないでください−
怒りを絡ませた優子の言葉を無視して悠子が続けた。
−ほら、早く帰ってあげなきゃ、陽子ちゃんが泣きじゃくってるよ。あらあら、美咲ちゃんも号泣してるし、元彼は…。まあいいか。満身創痍の雄一に殴られても死にはしないでしょうから−
−な、何言ってるですか?死んでるんだから向こうに帰れるわけないでしょ−
未練を立ち切ろうとしていた優子が恨めしそうに睨んだ。
−死んでたらね。でも優子ちゃんなら戻れるよ−
−戻れる?何言ってるですか?いい加減にしないと怒りますよ−
−何って、あなたは無事で、ちゃんと生きてるってことだけど−
−胸を刺されたんですよ。無事なわけないでしょ−
−刺される直前にね、美咲ちゃんにその胸を突き飛ばされたのよ。『お姉ちゃんを苛めるな!』って、凄い剣幕で怒ってたのよ。ほら、あの子って苛めに対して敏感だから。で、突き飛ばされたあなたは、床で頭を打って気を失っただけ−