死後の世界へようこそ-2
−うそ…−
−うそじゃないよ。死んだと勝手に勘違いして、慌ててここに顔を出したみたいね−
−か、勘違い!まさか!−
−そうなんだってば。思ってた通り、優子ちゃんてかなりそそっかしいみたいね−
−そそっかしい?あたしがあ?−
心外なことを言われて優子は剥れた。
−うふふ、でも勘違いでこんなことができるなんて、優子ちゃんはやっぱりお夕さんの生まれ代わりかもね−
−バカなこと言わないでください。じゃあ、どうしてさっきはあたしが死んだみたいに言ったんですか?−
−うふふ、あなたを見てたら、からかいたくなっちゃって−
−(こ、こいつの中身は陽子だ…)−
こんな切羽詰まった状況下で、真面目だと思っていた悠子から、陽子と同じ匂いを嗅ぎ取った優子は唖然とした。
−うふふ、優子ちゃん、ありがとうね−
−何ですか。唐突に−
−あなたのお陰で陽子ちゃんと話すことができた−
−それは悠子さんの力でしょ−
−いいえ、あたしにそんな力が有るなら、始めから陽子ちゃんと話ができてる。やっぱりあなたが居てくれたから奇跡のような邂逅が叶ったのよ−
−だったらまだ行っちゃダメだよ−
−どうして?−
−だって星司さんとはまだ話してないじゃないですか−
−うふふ、星司くんはシャイだからね。でもね、あたし達は昔から一緒に居るだけで幸せだった。言葉は無くてもこうして会えるだけであたし凄く幸せなの−
−えっ?『会える』って−
−ほら、優子ちゃんの心を通して、さっきから来てくれているのよ−
−えっ?−
振り替えると、星司のイメージが頭を掻いていた。
−ええええーっ!いつの間に!−
−オレが『ヌケてる』って話のあたりかな−
−どうしてっ!!!−
星司の答えを聞いて優子の目が吊り上がった。
−バカじゃないの!どうしてあたしを押し退けて話さないのよ!もう逝っちゃうんだよ!さっさと前に出ろこのバカーッ!−
激昂した優子が星司のイメージの尻を蹴り押した。
−おわっと−
−うふふ、星司くん、大丈夫?−
−ああ、大丈夫だ。色々とすまん。各務家のゴタゴタに巻き込んでしまった−
つんのめった星司に悠子が楽しそうに聞くと、星司が頭を掻きながら応えた。
−あんたバカなの!そんなどうでもいいことは放っといて、早く抱き締めなさいよ!悠子!あんたもよ!どうして飛びつかないのよ!−
気の急いた優子が星司の尻を蹴り、悠子の背に回って背中を押して罵声を浴びせた。初めに星司を蹴れたことで、イメージ同士ならばそれも可能なことを理解した優子は、恋人同士に最後の抱擁をさせたかったのだ。
−ありがとう優子ちゃん。じゃあ、後ろを向いてくれる−
背中を押す優子に振り向いた悠子が言った。
−えっ?あっ!−
照れ笑いを浮かべる2人を見て、自分がそれの邪魔をしていることを優子は覚った。
−ご、ごめんなさい−
真っ赤になった優子は、慌てて2人に背を向けた。
優子の視線を逃れた悠子は、目から涙を流しながら愛する男に抱きついた。それをかつての恋人もしっかりと受け止めた。
重なる唇。2人はこれまでの溝を埋めるようにお互いの唇を激しく求めた。
−よかったね。悠子さん−
2人の幸せそうな気配を背中に感じた優子の中に、ふとある考えが芽生えた。優子の目の前には、悠子を迎えにきた光の道が明るく輝いていた。