オーディン第四話『大きな木の下で・前編』-2
ガキィン…、長髪の男の剣がファウストの剣を弾いた。ストームブリンガーは空中で回転すると、地面に虚しく突き刺さった。
「ファウスト!!」
フレキが男に襲いかかるも、片腕で振り払われた。地面に倒れ、無防備なファウスト。その目から赤い光は放たれていなかった。
「くっ、なんだってんだ」
「“腕輪”は貰った」
長髪の男の口元が笑う。そして剣は勢いよく振りおろされた。
「スルト、聖樹をなんと心得る」
女の声がした。ファウストが上を見上げると、鎧をまとった女がいて、頭の上で男の剣を女の剣が止めていた。
「邪魔をするな」
「聖樹を傷つけた罰、うけてもらおう」
「お前も…死ね」
男の握る剣が炎をあげる。しかし女は剣を振り、それを弾いて、男もろとも吹き飛ばした。
「我が名はウルズ、聖樹ユグドラシルを守る者…、死にたくなくばここを立ち去れ」
そういうとウルズは剣を払った。
「…地の利は貴様にあると言うわけか…、運がよかったな白髪頭、しかしお前に次はない、“腕輪”は必ずいただく」
スルトと呼ばれた男は、剣を地面に刺すと炎に包まれ、炎が消えた時、その姿も消えていた。それを確認するとウルズの険しい顔が和らいだ。
「スルトに目をつけられるとは…、お前の“腕輪”、余程の物なのだろうな」
「礼を言う、ウルズさん、だったかな」
「…お前を助けた訳ではない、スルトが聖樹を傷つけたから追い払ったまでだ」
「とりあえず礼は言った…、俺はここで待ち合わせしてる、もう少しここにいすわらせてくれないか」
ウルズは頷く。
「聖樹を傷つけぬなら、私には関係のない事だ、勝手にしろ…」
気付くとウルズの姿は消えていた。
「ファウスト、大丈夫かい」
「ああ、フレキのおかげだ」
「何で目、光らなかったんだろう…」
「さぁ…、とりあえず、スルトとかいう奴には会いたくないな」
「そうだね」
「それにしてもこの“腕輪”、そんなに貴重な物なのか?」
「そろそろミッドガルドにでも行って、それ、売っちゃう?危ないし」
「売るのは八個全部そろってからだ、八個そろったら何かあるやもしれんだろ、例えば…、願い事が叶うとか」
「そうだね、間違いない、きっと腕輪の魔神が現われて願いを聞いてくれるんだよ」
「…今俺の事馬鹿にしたろ」
「し、してないよ」
「分かりやすい奴だ、まぁいいこれはとにかく持ち続ける、いいな?」
「いいんじゃない?」
「興味なさそうに…、するなああああ」
聖樹ユグドラシルの下で、ウエスタン風の男と狼が、次の朝までくつろぐのだった。