お別れのとき-1
【お別れのとき】
−ふう。そろそろお別れかな−
静寂な無垢な心の中で、ため息混じりのそのつぶやきが溢れた。
その瞬間、悠子のイメージが抜け出し、その反動で陽子のイメージも優子から別れた。
今まで自分は無敵だと思っていた優子は、急激に心細くなった。
−お別れってどういうことですか−
−星司くんは任したからね−
優子の問いに答えず悠子は微笑んだ。優子の想像していた通りの優しい微笑みだった。
−悠子、ごめん、あたしずっと悠子のことを…−
−うふふ、陽子ちゃんは何も悪くないよ。嫉妬心ならあたしなんて陽子ちゃんの何倍も持ってたもの−
−そんなことないよ−
−うふふ、安心した。陽子ちゃんは陽子ちゃんのままで居てくれた−
−バ、バカじゃない。これでもあたしも成長してるんですからね−
陽子のいつもの照れの裏返しだ。
−あはは、優子ちゃん、こんな陽子ちゃんだけど、凄く寂しがり屋なの。時々でいいから優しくしてあげてね−
悠子のイメージが揺らぎ始めた。
−は、はい…−
−悠子、行かないで!このまま…−
陽子が言わんとしたことは悠子にはわかった。
−それは無理ね。美咲ちゃんの身体は美咲ちゃんに返さないと−
薄れゆく悠子が即答した。
−悠子…−
それがわかっていた陽子が項垂れた。それをすれば悠子も各務の闇と変わりないからだ
−じゃあね−
−イヤッ!−
陽子が慌てて顔を上げた。その目には涙が溢れていた。
−悠子さん、行かないで−
優子が、消えゆく悠子を掴もうとしたが、もう2人が重なることは叶わなかった。
−2人ともありがとぅ…−
悠子のイメージは最後まで微笑んだまま消えていった。
−待って−−−…………−
美咲の心の中で2人の声が反響した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「待って!」
突然、目覚めた優子がその言葉を口にした。
「優子ちゃん!」
複数の驚いた声に優子も驚き、キョロキョロと視線を廻らせた。満身創痍の雄一を初め【痴漢専用車両】の面々が自分を覗き込んでいることに気づいた。
視線の端では、目覚めたばかりの陽子が、自分と同様にキョロキョロしているのが映った。
「悠子さんは?星司さんは?」
陽子の無事な姿に安堵する一方、優子は気になる2人のことを慌てて聞いた。
「悠子さん?姉ちゃんのこと?姉ちゃんならもう帰ったかな…」