幸田美咲の正体-4
『嘘だと思うんだったら、このDNA鑑定書を出して、愛人の子供だと名乗り出ようか?ついでにコレも付けてな』
『DNAだと?いつの間に…。そ、それにそれは何だ?』
『見たらわかるだろ。お前があたしの中に出したクソ汁だろうが』
美咲はガラス瓶の蓋を開けて、中の液体を大木の頭にぶちまけた。
『うわっ!や、やめろ!な、何をするんだ』
『やかましい!』
『ぐおっ…』
慌てる大木の腹を足蹴にして美咲が凄んだ。
『静かにしないと今度は顔を蹴るよ。怪我の原因を記者に探られたくないだろ。わかってんのか』
美咲が大木の髪を鷲掴みにすると、大木はコクコクと頷いた。
『お前が使ってる組のヤツ、あたしに貸せ』
『ど、どうするんだ』
『あたしに楯突いたヤツとパーティーするんだよ。お前はその尻拭いだ。あはは、忙しくなるぞお』
決して逆らう事などできないと思っていた相手が、簡単に足下にひれ伏した瞬間だった。
−ほら、簡単だろ。ようはやり方なんだよ−
こうして力を手にした美咲は、今まで自分を虐げてきた者達を浅見達に次々に襲わせ、男達はリンチし、女達はレイプさせていった。
『あははは、あははは、ざまあみろ!あははは』
泣き叫び赦しを乞う者達を前に、美咲は高笑いの日々を繰り返した。
しかし、美咲の心は満たされなかった。そんな時、分けのわからない衝動に駈られた美咲は、【心】の命ずるまま電車に乗っていた。それは星司が乗っていた電車だった。初めて合うはずの星司に、美咲は懐かしさを伴う憎しみを覚えたのだった。
−違う!それはあなたの憎しみじゃない!−
美咲の記憶の中に、突然女の声が響いた。
−あなたはそれまで星司さんに会ったこともないでしょ。それはあなたじゃないのよ−
「あたしじゃないって…。何を言ってるの」
−感じて。本当のあなたはそんな邪悪じゃないはずよ。優しかった自分を思い出して−
「あたしが優しいわけないでしょ」
−ピィよ。ピィのことを考えて−
優子はさっき辿った記憶の中で、美咲が一番幸福を感じていた頃の【ある名前】を口にした。
「ピィ…」
その名前を口にした美咲は、自分が買っていた小鳥のことを思い出した。友達の居なかった小学生の頃、唯一心を通わせることができたのがピィだった。
−ピィはこっちにいるよ−
優子は記憶の扉の1つを差し示すと、それに興味を示した美咲の心に楔を打ち込んだ。その瞬間、美咲の無垢な心だけが小鳥を求めて記憶の扉の中に入っていった。
それに追いすがろうとした黒い意識の前に優子のイメージが立ちはだかった。
−何こそこそしてるのよ−
−邪魔をするな小娘!お前なんぞ、わしの前に立ちはだかるのは100年早いわ−
−単なる各務の闇のクセによく言うよ−
−な、なんだと!なぜ知っている?もしかして、お前はお夕なのか?−
驚愕した闇の意識が聞いた。
−誰?あっ、そうか、昔各務家を救った伝承の人だ!って、どうしてあたしそんな事知ってるの?−
その自問に優子の心は震えたが、その瞬間、全てを理解した。