車両の対決、星司VSジョン-1
【車両の対決、星司VSジョン】
「セイッ!」
にやにやと薄ら笑いを浮かべるジョンに、雄一は気合いを込めた蹴りを放った。
しかし、それは怒りに駆られて繰り出されたもの。そんな蹴りはジョンには通用せずにサラリとかわされた。
(やばいっ!)
かわされた瞬間、雄一は当て身を入れられる覚悟をしたが、何故かジョンは手を出さなかった。2人は直ぐ様体勢を整えて向き直った。
「オオ、怖イデスネ。擦レタ処、痛イヨ」
ジョンのおどける姿を見て、遊ばれていると雄一は自覚した。しかし、それが反って雄一に冷静さを取り戻させた。
「余裕かまして後悔するなよ」
雄一は敢えて軽く言いながら自分のペースを取り戻そうとした。
「ウホホ、コノ人、楽シメソウデス。手出シシナイデ」
雄一から余分な力が抜けたことを感じたジョンは浅野を牽制すると、嬉しそうにな笑みを浮かべて攻撃の構えに入った。それは軽薄な雰囲気とは相容れない隙の無さだった。
「こいつ…」
雄一は迂闊に仕掛けることができなかった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「優子ちゃん、泣いてないで手を貸しなさい。反対から陽子さんを抱えるのよ」
陽子の脇を抱えた由香里が、優子を促した。
「い、いや…」
しかし、目を見開いたまま涙を流す優子は、呆けたように首を振るだけだった。
「バカ優子!」
由香里の罵声とともに、優子の頬に衝撃が走った。
「ひっ…」
頬に感じる痛みで、優子の目に力が籠った。
「こんな時のために、陽子さんはあんたを選んだのよ!あんたがしっかりしないと、マスターを助けられないでしょうが。それにはまず陽子さんよ」
優子の頬に平手を打った由香里が畳み掛けた。
はっとした優子は陽子に視線を向けた。
「陽子さん…」
気の強い陽子が時折心の中を見せることがあった。その時の陽子の心の弱さに優子は驚き、表面上に見せる強さは、あくまで星司を守るためのぎりぎりの虚勢であることを知った。陽子もまた、星司と同じく守らなければならない人だった。
「そ、そうね。ごめんなさい…」
優子は由香里が示したとおり、陽子の腕を抱えて立ち上がった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
隙がないはずのジョンの眉がピクリと動いた。対峙するする雄一は、攻撃かフェイントか一瞬判断に迷ったが、結局、どちらでもなかった。雄一もまた、背中にその気配を感じて指先がピクリと動いた。
「雄一、代われ」
背中から聞こえた声に雄一はホッと安堵したが、それを相手に気づかせるほど未熟ではない。ジョンを目で牽制したまま、ゆっくりと下がって星司に場所を開けた。
「Oh!A master has come.(おお!マスター登場ね)」
楽しそうに言ったジョンだったが、一瞬後には溜めも見せないまま右足を蹴り出していた。ジョンの研ぎ澄まされた勘が星司と対峙した瞬間に疼き、雄一の時ほど遊ぶ余裕の無いことを覚ったのだ。
星司は上体を左側、ジョンの蹴り出した右足の外側に傾けてそれをかわしたが、ジョンは長い足の返す角度を変えて、鎌で刈るように星司の顎を狙った。しかし、星司も僅か数センチで見極めてそれも空を切った。