車両の対決、星司VSジョン-4
そんな優子の思いが伝わったのか、陽子の目がカッと開かれた。
「逃げて…闇が…」
優子が握る陽子の手に力が込められた。
「大丈夫。星司さんも他のみんなも連れてきます!陽子さんはここで待っててください!」
「ダメーッ!」
叫んだ陽子だったが、直後に力が抜けたようにグッタリとなった。
力の無い陽子の手をそっと下ろすと、決意の固まった優子は勢いよく立ち上がった。その視線は今逃げてきた車両に向いていた。
「大丈夫。あたしがみんなを守る」
陽子に聞かせるためでなく、優子は自分自身に言い聞かせていた。その根拠はわからないが、優子は心の中から沸き上がる衝動が抑えられなかった。優子はその衝動のまま駆け出した。
「危険…各務の闇…」
意識の混濁する中でつぶやいた陽子の言葉は、星司の元に向かう優子の耳には届かなかった。もう陽子には成す術はなかった。無力感に圧し潰されそうな陽子の口から自然とその名前が零れた。
(悠子…)
その名を口にした途端、陽子の脳裏に高校生の悠子のイメージが膨れ上がった。
(悠子…助けて…)
陽子にとって辛くもあったが一番楽しかった頃の悠子が微笑みながら頷いた。その優しい微笑みが心の一部を掴む美咲の意識を切り離し、さらに浄化の力となって心の隅々まで染み渡っていった。
−……♪−
悠子のイメージが、悪戯っぽく何かを囁いた。サイレント映画のようにその声は陽子には届かなかったが、悠子の言いたいことは陽子には理解できていた。
(わかった…このまま休んだらいいのね…)
親友の微笑みに癒された陽子は、安堵の微笑みを浮かべながら意識を落とした。
「ちっ!」
その時、反対側の予備車両の中で、美咲が面白く無さそうに舌打ちをしていた。
「切りやがった。あの女も使えるのかよ」
能力が無いと踏んでいた陽子に意識を閉ざされたため、吐き捨てた美咲だったが直ぐに怪訝そうな表情を浮かべた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「由香里先生、ターゲットはどうします」
連結の向こうで全裸の女達が泣き叫んでいた。断罪させるために誘い込んだ女達だ。それを気にしたプレイヤーが由香里に確認を求めた。
「放っておいてもいいけど、怪我させちゃうといけないか」
【痴漢専用車両】は精神的に罪を償わせるためにある。レイプに必要な暴力を除いて、肉体的なダメージは与えないことになっていた。
「いいわ、向こう側の女は無理でしょうけど、手前の2人だけでもこっちに移しましょう。あっ、逃げないように裸のままでいいから。あっ、騒ぐようなら猿ぐつわと手錠ね」
由香里は判断を下した。
「わかりました」
2人のプレイヤーが連結扉を開けて通路をくぐると、その直ぐ後ろから勢いよく続く者がいた。
「あっ!優子ちゃんダメーッ!」
全裸の女体の背中に向けて、慌てた由香里が叫んだ。