葛藤-1
あの出来事は優里の脳裏から一時もはなれることはなかった。
Aのマンションから帰る途中、優里は警察へ行くと決めていた。
しかし、なぜかその足は重く、気付けばそのまま帰宅していた。
自分の部屋で、今日の全ては夢なのではないかと思った。
これは悪い夢だ。目が覚めればいつもの自分に戻る。
優里はそう自分に言い聞かせたが、バッグの中の封筒を
確認すると、それが現実だと思い知らされた。
あの時の別れ際・・・
A『興味があればまた来れば良い。俺の名前も連絡先も伝える必要はない。ここに来れば良いだけの話だ。全てはお前次第だ。』
優里は心の中で、誰が来るものかと叫んだ。
しかし、今の優里の怒りや悲しみを押さえつけているものは
紛れもなくAから与えられた、目の前の大金であることは間違いなかった。
『・・・自分を犠牲にして手にしたお金だ・・・』
優里は自分に言い聞かせ、自分が希望するものを手にした。
しかし、それでもAから与えられた現金を使い切ることが出来なかった。
優里はある日を境に、続けていたアルバイトを辞めた。
そして、気がつくとAのマンションの前に向かっていた。
エントランスで、優里はAの部屋番号をコールした。
A『名前は?』
感情のない声から、すぐにAだと優里は分かった。
『・・・優里です・・・』
A『入れ』
エントランスのロックが外れと、優里はエレベーターに乗り
Aの部屋の元へ向かった。