2-9
刹那、河野はシンの身体を突き飛ばしたかと思うと、そのまま麗子の身体をギュッと抱きしめ、力強くキスをした。
シンの身体は、壁に強く打ちつけられて、そのまま床に倒れこんだ。
だが、今の河野にそれを気にかける余裕なんてなかった。
早く、この女を抱きたい。頭の中はそれだけであった。
キスをした瞬間、麗子の形の良い瞳から涙がブワッと溢れる。
頬に添えられた大きな手は汗ばんでいて、彼の荒い鼻息が麗子の鼻の下をくすぐる。
ロボットでは決して見ることの出来ない、生身の人間の反応だった。
あの河野が自分に欲情して、こんなにも荒々しいキスを求めてくれたのだ。
舌を絡ませるキスは、唇の端からどちらのものかわからない唾液が滴り落ちた。
「河野さんっ!!」
「葉月……」
まっすぐに見つめる河野の瞳に、軽蔑の色はなく、純粋に欲情したオスの顔がそこにあった。
「あたしっ……ずっと、ずっと河野さんのことが好きで……でも、彼女がいるからずっと諦めなきゃって……」
言いながらも涙が溢れてくる。
河野には婚約している彼女がいる。
報われない片想いは辛かったけど、邪魔はするつもりなんてなかった。
だが、自分の邪な思いが、河野を汚してしまったのだ。
それなのに、河野に抱きしめられて、キスをされて喜んでいる自分がいる。
間近で見る彼の真剣な眼差しには、自分しか映っていなかった。
今の河野は、麗子をしっかり見つめていた。
「河野さん……抱いてほしいです」
麗子がそう言うと、河野は再び麗子の唇に、自分のそれを重ね合わせた。
「んっ」
食むようなキスの音が、辺りに響く。
上唇を啄ばんで、下唇を啄ばみながら、河野は優しく麗子の髪をなでる。
その髪を撫でた手はゆっくり下に降りてきたかと思うと、汗ばんだ麗子の胸を捉え、そっと揉みしだく。
「はあ……あ……」
ツンと尖った乳首が手のひらで擦れると麗子は顔を河野の胸にうずめた。
荒い息が、河野のワイシャツ越しに伝わる。
麗子は、ネクタイを緩め、そのいい匂いのするシャツのボタンを一つ一つ外していった。