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「は……づき」
河野は反射的に喉を鳴らす。
それは彼が初めて麗子のことを生身の女と意識したからだった。
麗子は誰もが認める美人で、河野も例に漏れずそう評価していた。
小さな顔、サラサラのストレート、長身。
しかし、一般人とかけ離れた美貌は、河野にとって一人の人間というより、作られた人形のように思えて、どうしても女性として見ることができなかったのだ。
だが、今の麗子は確かに一人の人間。それも生々しい女の部分を惜しみなくさらけ出していた。
「……河野さん」
麗子は河野を見た瞬間、ブワッと涙を溢れさせた。
見られた。
身体を、ではなく、今自分を犯そうとしている存在、セックスロボットを、大好きな人に見られた。
助けて欲しかった反面、麗子は堪らなく今の状況が恥ずかしくなって唇をキュッと噛み締めた。
『河野、さん』
麗子の声に反応するかのようにシンの瞳が河野を捉える。
聞き覚えのあるその名前に、シンはデータを探っているのかしばらく河野を見つめたまま固まっていたが、
『ああ、“河野さん”ですね。麗子の片想いの』
とニッコリ笑った。
「え!?」
河野は思わず自分の耳を疑った。
目の前にいるのは、ロボットであるというのは、そのあまりに端正過ぎる顔の作りですぐ理解した。
多忙な麗子の事だから、家事代行のAIロボットでも購入したのだろう。
だが、そのロボットは何かウイルスにでも感染してしまったのか、突如持ち主の麗子に襲いかかろうとしている。
そこまでが、今の状況だと思っていたのに、全く予想もつかないことをこのロボットが言い出したからだ。
密かに麗子の方を見やると、彼女は泣きながらも顔を真っ赤にして俯いていた。