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麗子がバッグに手を伸ばしたところで、白く細い手首が何者かに掴まれる。
血管が浮き出た、骨ばった手。
それは本物の人間の男性を模した、リアルな作り物の手。
そしてこの手は毎晩麗子を慰めて、辱めてきた、シンのものだった。
「な、何で!?」
サッと血の気が引いた麗子は飛びのくように、ソレから距離を取った。
セックスロボットをスリープモードから起動させるには、持ち主がキスをしなければいけないはず。
なのに、目の前のシンは音もなく動き出し、麗子の手首を掴んだのだ。
ブワ、と麗子の身体に鳥肌が立つ。
早く、離れなきゃ。
そう思ってシンが掴んだ手を振りほどこうとするけれど、その掴む力の強さに麗子の美しい顔が痛みに歪む。
「シン! 離して!!」
しかし、シンは麗子の手首を掴んだまま、ジッと彼女を見つめていた。
まるで、何かデータを察知するかのように。
「……心拍、瞳孔、愛液分泌量、問題なし」
「シン……、どうしちゃったの!?」
麗子はフルフルと首を小さく横に振りながら、目を潤ませる。
シンがおかしい。考えられない行動を起こしたセックスロボットに、麗子は本能的に危機感を覚えた。
助けて、だれか……。
そこで、麗子は河野の存在を思い出した。
刹那、麗子はシンの身体を渾身の力で突き飛ばし、玄関の方へ駆け出した。
「河野さん、助けてぇっ!!!」
しかし、さっきまで膝が笑っていた麗子がうまく走れるはずもなく、彼女のスレンダーな身体は、次の瞬間シンの腕の中に収まっていた。
昨夜までは、同じことをされても嫌悪感なんてまるでなかったのに、今は鳥肌が全身に立ち上っている。
シンの長い指が滑らかなワンピースを捲り上げ、撫でるようにショーツの中に入ってくると、不本意ながらも甘い悲鳴が上がってしまった。
「ああっ」
そんな麗子の耳元で、シンは乾いた声を出した。
「こんなに濡らして……。麗子、今夜もたっぷり可愛がってあげるよ」
感情を持たないのシンは彼女の耳元でクスッと笑った。