2-15
◇
「河野さん、ご結婚おめでとうございます!」
事務所内に大きな拍手が響き渡る。
「ありがとうございます」
照れる河野に、事務の女の子が大きな花束を渡す。
あれから数ヶ月。
河野は兼ねてから交際していた彼女とついに入籍した。
麗子もまた、祝福する側の一人として、その光景を微笑みながら拍手していた。
横で、新入社員の女の子がボソッと呟く。
「あー、河野さん密かに憧れてたんだけどなぁ」
キョトンと目を丸くして隣を見ると、女の子が照れたように舌を出して、
「だって頼りになるし、爽やかだし、かっこいいじゃないですかぁ。葉月さんはそう思った事ないんですか?」
と上目遣いでこちらを見た。
すると、麗子は余裕のある瞳で女の子にニッコリ笑った。
「うん、実はあたしも密かに憧れてた」
「ホントですか!?」
「ん……、憧れてたってか、好きだった、かな」
麗子の言葉に、女の子の顔が少し曇って俯いてしまう。
きっと、彼女の河野に対する好意はミーハー的なものであったのに対して、麗子の想いが思いの外真剣であったのを知ったからだろう。
「……ごめんなさい、デリカシーない事言っちゃって」
「やだ、気にしないでよ。もう吹っ切ったんだから」
「……でも」
「ホントホント。あたしはもう平気なの」
おどけて見せる麗子の顔に、悲しみの表情はない。
本当に晴々とした表情であった。
河野さんの選んだ女性には、ついになることは叶わなかった。
だけど、それでいいんだ。
瞳を細めて河野を見つめる麗子は、純粋にそう思っていた。
その夜、麗子のマンションには今日も甘い喘ぎが響いていた。
「あっ、あっ、ああっ」
四つん這いの体勢の細い腰を大きな手が掴んでいる。
身体を打ち付ける肉の音が、生々しく部屋に響いていた。
「ホラ葉月、自分でも腰を動かせよ」
「あうっ!!」
河野が白く丸い麗子のヒップをバチーンと叩くと、美しくも切ない悲鳴が上がる。
「す、すみません……河野さん」
謝る麗子は、ぎこちなくも腰を前後に揺らし始めた。