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『……麗子』
シンは瞬きをしてから、麗子の存在を認めるとニッコリ笑う。
「ねえ、シン? またエッチしたいんだけど」
『もちろん。僕も君としたかった』
嬉しそうなシンの顔に、麗子の顔も綻んでくる。
いつもならばシンはそのまま麗子をお姫様抱っこして寝室に連れていくのだが。
「……今日はちょっと違うことをしてみたいの」
麗子は、自分の身体を抱き上げようとするシンの腕を軽く否して、上目遣いでシンを見た。
『違うこと?』
「……そう。愛し合うのにこんな形もあるって、シンに教えてあげる」
シンの胸板をツツ、となぞる麗子は、動揺を悟られないよう余裕ある笑みを作って見せた。
相手はどうせロボットだ。
あたしがどんな歪な欲望をぶつけたとしても、シンはなにも感じない。
ゴク、と麗子が生唾を飲み込む音だけが、やけに大きく響いた。
◇
「ああっ……あん……」
一人暮らしにしては広いリビングに、麗子の悩ましい声が響く。
シンとのセックスは、いつも寝室で行っていたし、さっきの行為もそちらで行われていたのだが、今度の舞台はこちらであった。
夕食で食べたステーキの、香ばしい香りがまだ残る部屋。
そしてテレビの前ではそこで寝落ちしてしまうことがしばしばあるほど、座り心地がいい二人がけのソファー。
麗子はそこに横たわり、その長い脚を片方は床に、もう片方をソファーの背もたれに投げ出す形で惜しげもなく開いていた。
「ああん……気持ちいい……」
麗子は頬をバラ色に染めながら自らの泣き所を優しく慰めていた。
シンがこの家に来てから、すっかり自慰行為をすることがなかった麗子にとって、この行為がすごく新鮮に思えた。
それは、久しぶりのオナニーだからというだけではない。
麗子がうっすら瞳を開いた先には、シンがすぐそばで彼女の自慰行為を黙って眺めていたからでもあった。
『麗子、一人でするのが気持ちいいの?』
シンはあくまでも機械的な質問をした。
決して辱めることが目的ではない、純粋な疑問として。
女性と性行為をするためだけに作られたシンにとって、麗子が自分に触れず、ひたすら自慰に耽るその意味が理解出来なかったのだ。
そんなシンに麗子は柔らかく目を細める。子供に何かを教える母のような眼差しで。
「そう……。触れてもらうだけじゃなく、ただ見られるってだけで女は気持ちよくなれるのよ……。ああっ……」
そう説明しながら、動かす指は休むことなくパンパンに張った淫芽を優しくなぞっていた。
相手がロボットとは言え、見た目はほぼ人間の男である。
そんなシンに自慰行為を晒す行為は、普段の麗子からは想像もつかないものであった。