ドアの無い部屋-1
漆黒の闇の洞窟をLEDライトの頼りない光を道標に進んだ奥に、現代社会とは明らかに異質な文明を匂わせる装置があった。
そこに座った二人の女の剥き出しの股間が光り、闇の奥の巨大な岩の扉が唸りをあげて、SFの宇宙船を思わせる純白の通路への入り口が開かれた。
「行くわよ。」
鍵の役割を担っていると思われる岩の椅子から凜花が立ち上がった。
「あ、危なくないですか?」
「大丈夫。」
凜花は彩音の手を取り、立ち上がらせた。
「この奥に、私があなたを必要としている理由がある。」
はっきりと明言する凜花をしばし見つめ、ライトで白い通路の奥へと視線を巡らせた彩音が、キュっと唇を結んで歩き始めた。
「行きましょう。」
SFで白い通路、とくれば壁が自律発光で明るい、というのがお約束だが、ここは残念ながらそうではない。相変わらずLEDライトのお世話になりながら進んでいく二人。 さっきまでの洞窟とは違い、音がほとんど反射してこない。その事がむしろキーンとした耳鳴りを感じさせて、彩音は少々気持ち悪くなってしまった。
「ここからは緩い下りが続くから、転がり落ちないでね。」
丘を一つ越えたような感覚がして、彩音は勾配の変化を感じた。
四人無理なく並んで歩ける程度の幅のその通路は、緩く左へカーブしているのであまり先の方までは見えない。
このまま永遠に続いたらどうしよう、もうそろそろ五周はしたのではないか、と彩音が不安に思った頃、それは突然行き止まりになった。
「さっきみたいな椅子は見当たりませんね。」
強がってそう言う彩音の声は震えている。
「扉なんか必要ないの。何故なら、もう到着しているから。」
「え、ただの通路ですよ?」
その時。
視界がグニャリと歪み、周囲の全ての壁がサーっと遠ざかっていった。
「あっ」
それと同時に二人のLEDライトが消えた。
気付けば二人は、何の光も音も無い空間に立っていた。
「明かりを点けて。」
さっきまでとは違い、凛花の声には短い残響が付いた。
「凛花先輩、どこにスイッチがあるかなんて私知りま…」
カタン。
スイッチの入るような音がして、空間はフワリと穏やかな電球色の光に包まれた。
「彩音、あなたに言ったんじゃないの。」
「…音声アシスタント?今流行りの。」
それには答えず、前に進んでいく凛花。その先には、白いシーツに包まれたベッドが一つ、ポツンと置かれていた。部屋にあるのはそれだけだ。
暗闇の中で感じたよりそこは広く、壁も床も天井も、彼女らを囲む全てが鏡張りになっていた。
各面の鏡は一枚の大きなものではなく、一辺が一メートル程度の正方形の鏡を並べて敷き詰めてある。
床には左右に五枚、前後に七枚。つまり、面積は約三十五平方メートルだ。それは大体二十畳に相当する。
周囲の壁は上下に三枚並んでいるので、高さは約三メートル。
小規模なオフィス位の空間の広さ、ということになる。
「先輩、ドアが一つも有りませんよ?」
「そうね。」
「出るときはどうするんですか?」
凛花は彩音を振り返った。
「怖い?」
「ええ、すごく。」
「その言葉にウソは無いようね。だってあなた、小刻みに震えてる。」
「そりゃそうですよ、初めての所に来たんですよ?しかもこんなワケの分からない所へ。」
凛花の切れ長の目の奥の瞳が少し緩んだ。
「どんな場所だって、最初は初めてでしょ?」
「それは…そうですけど。」
「そして、どんな出来事だって最初は初体験。」
「だ、だからって、怖くないということには…」
「いらっしゃい。」
凛花は両手を大きく広げた。彩音は小走りに彼女に近づき、抱き着いた。
「あれ?凛花先輩も震えてる…」
「…彩音。」
凛花が彩音に口付けた。
上下左右前後。六面全ての鏡に、唇を合わせて抱き合っている二人の女の姿が写し出されている。
黒いショートボブにブルーのアンダーフレーム眼鏡のスラリと長身の女と、彼女にしがみついている日本人形のような髪をした小柄な女…。
二人は絡まり合うようにベッドの上に倒れ込んだ。
恐怖で軽いパニックを起こしているせいだろうか、彩音は理性を失くしたかのように凛花に覆い被さって彼女の唇を貪っている。
凛花の方はそれよりは落ち着いた様子で自分の上に重なっている彩音の制服スカートの裾を捲り上げていく。
彩音はパンティを穿いていない。白い太腿の裏側に続いて、それよりさらに白い尻が剥き出しにされた。
凛花の指先が、触れるか触れないかの強さで彩音の太腿の肌をなぞり、内側へと入り込んでいった。しかし、彩音の最も敏感なエリアは巧みに避け、尻の膨らみをなぞって降りて行った。
それを数度繰り返すうち、彩音はモゾモゾと身を捩り始めた。
「欲しいの?」
彩音は唇を一瞬放し、切なそうに頷いた。
彩音をゴロリと横に転がした凛花は、今度は自分が上に乗った。そして、彩音の制服ブラウスのボタンを外していった。
やがてブラまで外されて剥き出しになった彩音の胸。それは特別に大きくはなかったがプルンと形がよく、先端はツンツンに固く尖っていた。
凛花の両方の掌が、彩音のウェストのあたりから裸の腹を這いあがっていく。肋骨の凹凸を幾つか越えたところで、彩音が身を固くした。
しかし、凜花の指はまたもや敏感な先端を避ける。繰り返すほど彩音の不満は高まり、鼻息が荒くなっていく。
「凛花先輩、どうして?」
「その前に見て欲しいものがあるの。」
凛花が天井を指さした。
一メートル四方の鏡のうちの一枚に、何かが写し出されている。少し色の濃いピンクのウネウネとした質感の何か。唇を縦にしたような形をしており、その内側は湿って少しテカっている。