柵-2
「こ、怖い事言わないで下さいよ。」
「見た目の美しさに惑わされて簡単に行ってはいけない、と言ってるの。私だって、あれだけ見事に咲いた花の中で寝転がりたいし、涼しげな森の奥を覗いてみたいと思う。そして、それは本当に他では得難い素敵な体験になるかもしれない。でもね、でもね。」
凛花は不安そうな表情を浮かべている彩音をじっと見つめた。
「生半可な覚悟で越えてはいけない柵なの。一度向こう側へ行ってしまえば、もう戻っては来れないのだから。」
彩音は小さく頷き、呟いた。
「…越えたんですね、凛花先輩は。この柵を。」
それには答えず、口元に微笑みを浮かべる凛花。しかしその瞳は限りなく深い。
「さ、戻ろ!みんなの所へ。」
重い空気を振り払うように凛花が調子を変えて提案した。
彩音はそんな凛花の正面に回り込み、唇を合わせた。
「それがあなたの答?いいの、戻れな…」
もう一度。
「凛花先輩こそ。覚悟を決めてここへ連れてきたんでしょう?私を。」
凛花は彩音のおでこを人差し指でつついた。
「ナマイキだぞ、彩音。」
二人は屈託なく笑い、草原を後にした。