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私立花乃森女学院 〜 目覚めの時
【同性愛♀ 官能小説】

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-1

 「とりあえず服を着なさいよ、彩音。」
 「あ、はい。」
 「ごめんね、脱げと言ったり着ろと言ったり。」
 「いえいえ。凛花先輩には何か考えがあってのことなんでしょう?」
 「考え、か。理由ならあるけど。」
 「理由…」
 凛花は答えない。今来た道をチラリと確認し、森の奥に視線を巡らせた。
 「着れた?」
 「はい。」
 「来て。」
 凛花はゆっくりと歩き始めた。
 他の部員たちがいるエリアから少し走ってきたので、二人とも軽く息が乱れている。それを収めようとしているのだろうか、凛花のペースはかなり遅い。
 正面に、あまり木の生えていない岩山が見えてきた。それを右へと迂回すると、緩やかな上り坂に出た。
 道と言えるものはほとんど無い。原生林のままの地面に、微かに人の通った痕跡が見える程度だ。
 そんな道なき道をしばらく進むと、唐突に森を抜けた。
 「明るい…」
 彩音は眩しさに目を細めた。一気に降り注いだ日差しが、彼女の目の奥をツンとさせたのだ。
 そこは見渡す限りに広がる草原になっていた。ふくらはぎ辺りまでの高さの青々と萌える長細い葉っぱの一年草が、波打つように風に揺られている。
 「ねえ彩音。ここをどう思う?」
 「どう…そうですねえ、とても爽やかですね。草の萌える匂い、穏やかな風、日の光…」
 サーっと風が流れ、二人のスカートの裾をひるがえさせた。
 「おかしいと思わない?」
 「おかしい?」
 言われてもう一度辺りを見回す彩音。
 「…違和感、はありますね。具体的にどこがどうとは分からないんですけど。」
 すぐ目の前で、二匹の蒼い蝶がヒラヒラと、誘い合うように飛び回っている。足元の草の葉には、黒い甲虫がぶら下がり、少し離れた空を褐色のハチが飛んでいる。
 「この草は、早春から初夏にかけて一斉に葉を伸ばし、真夏を過ぎるころには枯れていく種なの。」
 「え、今はもう秋ですよ?」
 凛花はゆっくりと頷いた。
 「そこで飛んでいる蝶はこの季節には居ないし、その甲虫はまだ地面の下で幼虫の姿で眠っているはずだし、あのハチもこの時期はもっと低地でしか活動しない。」
 彩乃が眉を寄せた。
 「季節がおかしい?」
 「その通り。この辺りだけ、一年中初夏なの。」
 「そんなのって、ヘンですよ。」
 「そう、ヘンなの。四季のある地域に住んでいると、特にその異常さに気付きやすい。常夏の島々や極地方では変化の幅が小さいから分かりにくいけどね。」
 「地球規模の異常気象ですか?」
 「何を以て異常とするかにもよるけど、少なくとも私たちの経験的感覚に照らせば異常と言えるでしょうね。ただし、おかしいのは気象じゃなくて季節。」
 彩音の顔には混乱の色しか浮かんでいない。
 「何の話か分からない、って顔してるわね。」
 「え?あ、はい、その通りです。何をおっしゃりたいのか…」
 「それが正解。その感覚こそが正しい。」
 「はあ。」
 ふぅ、っと息を吐いてから、凛花は話を続けた。
 「この世界は永遠ではない。それは必然。でも、私はこの世界が好き。だから私は、彩音、あなたを必要とする。早霧先輩が私を必要としたように。だから早霧先輩は私を見付けたし、私はあなたを見付けなければならなかった。」
 彩音はもはや、笑うことも困ることもやめ、凛花の話に無心で耳を傾けた。
 「救うことは出来ない。でも、ほんの一瞬の輝きを保つことなら。」
 凛花は草原へと踏み出し、確かな足取りで進み始めた。彩音はそんな彼女に遅れず逸らず着いていく。
 進むうち、地面はなだらかな登りになっていった。
 「うわぁ…」
 彩音が思わず声を漏らした。
 草原の坂を登り切った所は平坦な丘になっていた。そして、彩音の視線の先には。
 「あんなに見事に花々が咲き乱れている様は見たことがありませんよ、凛花先輩!」
 色とりどりに姿様々に。この世の春を謳歌するがごとく活き活きと咲き誇る花々。それが、向かい側の山裾の斜面いっぱいに広がっているのだ。
 その先に広がる深い緑の森とのコントラストも見事だ。
 「綺麗、なんていう言葉では言い表せないほど素敵でしょ?」
 「ええ。今まで生きてきた中で最高の景色ですよ。」
 「もう少し前に行ってみましょう。」
 「はい。」
 進むほどに大パノラマが迫って来る。
 「ねえ、あそこにあるの、何だと思う?」
 五メートルほど先に、ほとんど草に隠された状態で石の台座ようなものが一定間隔で左右に並んでいる。
 その表面はゴツゴツとした自然石のままの様相で、一辺およそ三十センチ程の立方体形状だ。
 「…遺跡、ですか?」
 「半分正解。かつてここに有った柵の土台よ。」
 「こんな景色のいい所に柵があったんですか?」
 凛花は挑戦的な目をして彩音に命じた。
 「柵の有った所まで行ってごらんなさい。」
 「…はい。」
 不審そうに前に進んでいった彩音の顔が引きつった。
 「ひっ!」
 そこは。
 「断崖絶壁…まではいかないけど、かなりの急勾配でしょ?いったん下りたらもう登っては来れない。不用意に向こう側へ行ってしまわないようにするための柵、だった。」
 「あれだけ素敵な所なら、戻れなくなってもいいから行ってみたいですよ。」
 「本当に?毒のある花があるかもしれないし、危険な虫が潜んでいるかもしれない。奥の森からは腹を空かした野獣が睨んでいるかもしれないわよ?」
 彩乃はブルっと身を震わせた。


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