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私立花乃森女学院 〜 目覚めの時
【同性愛♀ 官能小説】

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キス?-1

 タクトが上がった。シンと空気が締まる。
 パーーンパパパーーーーン、パーーンパパパーーーーン…。
 フォルテッシモの金管ファンファーレが高らかに鳴り響き、新入生歓迎コンサートは始まった。
 新入生歓迎、と銘打っているが、新入生勧誘、と言った方が実態に近いだろう。全国優勝の実力を見せつけ、憧れを誘う作戦だ。ああ、私もあんな風にカッコよく演奏したい、という。
 実際、今では涼しい顔でコンサートマスターの席に座る東城凛花も、特別出演でサックスを握る柏崎早霧も、それぞれ一年前、二年前のこのコンサートで心をときめかせ、入部した。今年はどれだけの新入生を虜にできるのだろう。
 ファンファーレの余韻が残る会場は静まり返っている。普段生演奏を聴きなれていない学生たちにとって、それは衝撃的だったようだ。
 タタッタタッタタッタターーッ…。
 静寂の中、空気を逃さずに二曲目が始まった。吹奏楽では超定番のアニメの主題曲だ。
 キレのいいイントロに続いて主題メロディを二回繰り返し、サビを経て主題の再現&仮終始。
 そして。
 「うわぁ…」
 会場中からため息が漏れた。
 アドリブ・ソロで颯爽と立ち上がった早霧が、アルトサックスでエッジの効いたフレーズをブチかましたのだ。
 パーフェクト美人の早霧とワイルドなソロとのギャップに客席の新入生たちは魅了され、虚ろな瞳でステージを見上げている。
 ジャージャ。
 ブレイク。
 「キャー!」
 悲鳴のような歓声に包まれてフワリと着席した早霧に代わり、コンマスの凛花がクラリネットを手にスクっと立ち上がった。
 ブォー…。
 クラリネットの特徴的な低音のロングトーンに続く幾何学的ともいえるようなメカニカルなソロは、地味なようでいてズンズンと腹の底に重いパンチをを響かせ、興奮を高めていく。
 「おお…」
 そのシブい哲学的な芸術性に、どよめきが起こった。
 パ、パ、パラ、パラ、パチパチ、パチパチパチ…。
 音域が徐々に高みへとシフトするに従い、演奏中にも関わらず拍手が起き始めた。
 ブォオォォオ。
 ブレイク。
 「わー!」
 早霧のソロの時とは違う尊敬にも似た歓声と拍手が沸き起こった。
 再び早霧が立ち上がり、二人のセッションが始まった。
 情熱的でラテンを思わせる華やかな早霧のアルト、それとは対照的に重厚で思索的な美に溢れた凛花のクラリネット。
 ピッタリ息が合いつつ個性がぶつかり合うエキサイティングな音空間。それはまるで、二人っきりの時の早霧と凛花のように濃密な絡みを展開していった。
 いつのまにか会場は熱狂に包まれていた。
 そして、入部希望者は第二音楽室へ、との案内を部長の凛花がアナウンスしたところで終演となった。
 他の部活の勧誘を見に行くために三々五々会場を去り始めた新入生たちの中に、じっと座ったままステージに熱い視線を送り続ける学生の姿があった。
 「こんにちは。」
 片付けが終わり、ステージから下りた凛花が、その新入生に声を掛けた。
 「こ、こんにちは。」
 彼女は俯いて頬を染め、恥ずかしそうに挨拶を返した。
 黒ストレートロング、前髪パッツン。陶器の様に白く滑らかな肌。
 頬がふっくらとしている顔立ちにはまだあどけなさが色濃く残っていて、華奢な感じのする体つきとマッチしている。
 「吹奏楽に興味があるのですか?」
 「あ、あの、とっても素敵な演奏で…わ、私も…出来たら…」
 凛花は、ふ、と笑った。
 「頑張れば大丈夫よ、」
 新入生の表情が少し和らいだ。
 「…なんていう無責任なことは言えないわ。」
 彼女の顔が引きつった。
 「が、頑張りますから。私、頑張ります…から…」
 「努力すればなんとかなるって世界じゃないの。元々の素質があって、その上で適切な練習をすればモノになるかも知れないけどね。」
 新入生は唇を噛んで俯いてしまった。
 「し、失礼しました…」
 ようやくそれだけを告げてクルリと後ろを向き、立ち去りかけた。
 「待って。」
 呼び止めたのは凛花ではない。
 「え…」
 「ごめんねー。この子、ちょっと真面目過ぎる所があるっていうか、不器用っていうか…」
 「い、痛…」
 早霧が凛花の頭をゲンコツでグリグリしている。
 「努力だけじゃダメとは言ったけど、あなたに才能が無いとは言ってないでしょ?」
 「え?ええ…。」
 「というわけで、っと。あと、分かるわね?凛花。」
 「いたた…。あ、はい、早霧先輩。」
 「あの、私…」
 「来て。」
 「は、はい。」
 凛花は新入生の腕をつかみ、強引に引っ張って歩き始めた。
 「こらこらー、もっと優しくー。」
 早霧の声を背中で訊きながら、二人は舞台袖へのドアをくぐった。既に撤収が終わっていたので、他に誰もいない。
 「いい?管楽器で最も重要な身体的能力は二つなの。」
 グイ。
 「え!」
 凛花は新入生を抱き寄せた。
 「あ、あの…」
 二人の顔と顔は、目の焦点が合わないほど近い。
 「分かる?私のお腹が動いているの。」
 凛花が呼吸する度そこは大きく前後に動いている。
 「これが腹式呼吸。普段生活しているときみたいに胸で呼吸していては、楽器を吹く時の息を支えられない。」
 「は、はい。」
 「そしてもう一つが…」
 「むぐぅ?」
 凛花がいきなり新入生と唇を合わせた。


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