K-1
静かないつもの公園。
日曜の早朝に行くと人はいない。
落ち着いた空間。
空気が凛としていて大好きな時間。
僕の居場所。
今日も絵を描く。
見えている景色と
そこに隠れている見えたいものを描きたくて。
動かないブランコも
カサカサ揺れる木々もすべてが僕に静寂をくれる。
夜が明け切らないこの短い不確定な時間。
スケッチブックと鉛筆とペットボトルだけ持って臨む。
今日はいつもと違った。
公園の片隅で小さな黒猫。淋しそうに毛繕いをしている。
僕と同じ孤独な存在。
同じ空間を介する仲間だ。
近づいて指を伸ばしてみる。
驚いて逃げる猫。
ため息をついてキャンパスを眺める。
うまく静寂を捉え切れていない下手くそな絵が滲んで見えた。
陽が昇りだす頃、家に帰る。
現実に還る。
ただ何かを見つけたくていつも同じ時間に訪れる場所。
次の日は荷物にソーセージを入れた。
あの臆病な共有者にまた逢えるだろうか。
期待しながら公園に向かう。
独りに慣れた。
むしろ独りでいることを望んでしまった。
公園に着いて辺りを見回す。
あいつはいなかった。
絵を描く。
描こうとしても集中できなかった。
ブランコの下に黒い影が動く。
あいつだ。
慎重にソーセージを取り出して静かに近づいた。
ソーセージを小さくちぎって目の前に置いた。
突然の贈り物にあいつは驚きながらも
ゆっくりと近づいてきて口に運んだ。
おいしそうに平らげた。
残りもちぎってあげた。
食べおわるといつもの毛繕いを始めて欠伸をしている。
おまえの独りなのかと話し掛けてみる。
ぎゅっと抱き上げてみた。
藻掻いて爪を立てるあいつ。
爪が皮膚に食い込んで血が滲む。
痛みを堪えて頭をなぜてみた。
「HOLLYNIGHT。
夜の静寂のようなおまえにはぴったりだろ。
いく場所がなかったらうちに来るか。」
半ば強引なこの行動にあいつは困惑気味の顔をしながら、低くミャアと鳴いて応えた。
いつもの時間になって家路に着く。
今日は独りじゃなかった。
それがうれしかった。
小さなアパートの一室が僕の住みか。
部屋に入ると手ごろな器に冷蔵庫からミルクを取出し注いであげた。
慣れない環境に怯えながらも舌を伸ばして夢中で飲み干した。
冷静に考えれば飼い主がいて今頃心配してるかもしれない。
本当は独りじゃなくてちゃんと帰る場所があったのかもしれない。
同居人の喉をなぜながら僕もミルクを飲み込んだ。
それから毎日あいつの絵を描いた。
キャンパスは真っ黒。
黒いキャンパスの中に彩りを感じながら鉛筆を走らせた。
僕の友達。
あいつはかけがえのない家族になった。