美雪-13
「ただいま。お兄ちゃん、直った?」
「あのな、これを貸してやる」
「これお兄ちゃんの目覚ましじゃない」
「ああ。明日はこれを使って、学校の帰りに新しいの買って来い」
「どうして? 直らなかったの?」
「あれは寿命だ」
「3年で金属疲労?」
「いや。やっぱり安いのは直ぐ寿命が来るんだな」
「安い金属使ってるから?」
「ん? まあそうなんだな」
「これはいいよ。私が借りたらお兄ちゃんが困るでしょ?」
「起きれるのか?」
「うん。大丈夫」
「まあ、俺が起きたら直ぐ起こしてやる」
「大丈夫。その前に起きてるから」
「そうか。感心だな。もう高校生なんだから、そうじゃなくちゃいけない」
「お兄ちゃんは?」
「俺が何?」
「私が目覚まし借りたら、目覚まし無しに起きれるの?」
「うーん。どうかな」
「いつも目覚ましが鳴る前に起きてる?」
「そういうこともあるし、そうでないこともある」
「大体いつも何時に寝るの?」
「早く寝る時もあるし、遅く寝る時もある」
「早くって何時?」
「10時」
「遅いのは?」
「12時」
「遅くて12時?」
「そうだ」
「お兄ちゃんって健全なんだね」
「何で?」
「私なんて12時前に寝たことなんか無いよ」
「何? 何してるんだ」
「勉強してるのよ」
「一年生で?」
「まあ、勉強だけじゃないけど」
「エロ番組なんて見てないで早く寝ろ」
「エロ番組? テレビなんて見ないよ。FMで深夜放送聞きながら勉強してるの」
「そんなんで勉強出来るのか?」
「お母さんみたいなこと言わないでよ」
「まあ、明日は目覚ましが無いんだから、今日は早く寝とけ」
「うん。それじゃ、あれを返して」
「何を?」
「だから目覚まし」
「あれは、だから寿命だ」
「だから、オルゴールだけ聴くから」
「子供みたいな奴だな。オルゴールなんか聴かなくていい」
「子供だもん」
「子供じゃないって言ったんじゃなかったのか?」
「子供の純真さと大人の成熟を併せ持ってるの」
「何処が成熟なんだ」
「体」
「生理なんて誰でもあるんだ。それくらいで成熟したと思うな」
「そしたら、成熟って何?」
「何ってまあ、いずれ年取れば自然に成熟するんだから焦るな」
「別に焦ってないよ」
「そうだ。大人しく早く寝ろ。寝て起きて、寝て起きて、これを2〜3千回繰り返せば成熟する」
「時計は何処?」
「時計? あそこにあるけど、少し遅れてるぞ」
「そうじゃなくて、私の目覚まし時計。オルゴールが気に入ってるんだから」
「妙な物を気に入る奴だな。あれは捨てた」
「え? どうして?」
「だから壊れてるんだ」
「針が動かないだけで、オルゴールは鳴ったよ」
「寿命が来て、ついにオルゴールも鳴らなくなった」
「嘘」
「嘘じゃない」
「何処にあるの?」
「其処に入ってる」
「あー。これは目覚ましじゃなくてゴミじゃない」
「だからゴミ箱に捨てたんだ」
「分解して元通りに出来なくなったんでしょ」
「いや、元通りにする意味がないからそのまま捨てたんだ」
「音は鳴ったのに」
「だからそれも寿命が尽きた」
「いっつも、こうなんだから」
「何が?」
「直すって言って壊しちゃう」