立花文恵(34)-6
第一印象は、
「こわっ!」
という一語に尽きた。
文恵の夫、立花悟は、身長こそ高くないものの、肩幅が広くて無駄な肉のない身体つき。
職業は建築関係の現場仕事とのことで、ガタイがいいのも納得だ。取っ組み合いでもすればまず勝ち目はなさそうだった。
だが、口を開くと実に温和そうな人柄で、初めて会う俺にも終始丁寧な言葉で接した。
「お恥ずかしいんですけど、文恵にベタ惚れでして」
文恵がキッチンで食事の支度をする間、リビングのソファに向かい合った俺たちだ。瓶ビールを開け、俺に酌までしてくれながら悟さんは言った。
「寿さんが文恵に変なこと言ってたと聞いて、最初ちょっと腹が立ったんですけどね」
「マジでごめんなさいっ!」
俺はテーブルに手をつき、頭を下げた。
「いや、本当に一瞬思っただけで……むしろ、文恵にムラっとしたなんて、見る眼がある人だなぁと親近感を覚えましてね」
俺も悟さんのグラスにビールを注いだ。
「とりあえず、文恵に乾杯といきますか」
「あーっ、あたしも飲みたい!」
エプロン姿の文恵がグラスを手にパタパタ駆けてきた。
三人で乾杯。また調理に戻っていく文恵を見送って、悟さんはやや身体を乗り出し、声を落とした。
「正直なところ、あまりアッチのことに自信がないんですよ、僕は」
「えっ!? でも話によると、週二とか週三で、してるって……」
「まあ、するにはしてるんですが……本当に文恵に気持ちよくなって貰えてるのか、とか、悩んでしまうんですよ」
「文恵さんは、マジにイッてるって話してましたけど」
「本当ですか!?」
悟さんは顔を輝かせた。純真な児童みたいな喜びの表情だった。
「面と向かっては、気遣いでそうも言うだろうとか、余計な心配をしてしまって……他人様にそう話したってことは本当なのかな。安心しました」
はにかんでビールをあおる悟さん。
「何か……すげえいい人ですね、悟さんって」
俺は思ったことを率直に言った。
「よして下さい。ただの女房依存症みたいなもんです」
「そういう謙虚さとかも……結婚長くてもラブラブな理由が分かったような気がします。今日会ったばかりなのに、男の俺が悟さんに惚れそうですもん」
「ちょっとちょっと……そっちの趣味はありませんよ」
「俺もないですから!」
どっと二人で笑い合った。