ばあちゃんに 突然に-1
俺は身長が155cm。電車などに乗って 学生たちと一緒になったら、とり囲まれて見おろされる圧迫感でいっぱいになる。
そんな俺が 団地のスーパーのレジで、スノガのばあちゃんの後ろに並んだりすると、
俺のアゴのすぐ下あたりに ばあちゃんのツムジが見えている。
ばあちゃんの背丈、どんだけ低いねん。
スノガのばあちゃんは、ウチと同じ棟の下の階に 一人暮らししてる。
真っ白な髪をまとめて、スタスタと歩く姿は特に若い奥様や女子学生たちから「可愛いッ!」と評判だ。
時々、そんな女性たちが「えーッ! おばあちゃん、どうしたの?」と目を見開いて驚くことがある。
アニメのヒロインが描かれたトレーナーとか、フリフリのワンピースとかを着て歩いてるんだ。
ばあちゃんはこんな事言ってた。
「……私ね、身体に合う服がないもんやから、孫のおさがり着とりますねん……」
いやいや、ばあちゃん。遊ばれてますよ。
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秋の気配が感じられはじめたころ、俺はスーパーでスノガのばあちゃんに会った。
「こんにちは」俺「こんにちは……」
「まだ時々 今日みたいに暑うなりますねぇ……」俺「そうですねぇ……」
「着るモン選ぶのに困りますねぇ……」俺「ええ、着て出たら『これは間違えた!』と思いますわ……」
そんなばあちゃんは、やはりお孫さんのおさがりと思われる、蛍光色に彩られた上着を着ていた。
それだけ世間話をしたんだけど、すぐあとにレジに並んだら、ばあちゃんは後ろにいる俺に気がつかなかった。
(まあ、俺のほうも特に声かけなかったんだけどな)
例によって俺の間近に、ばあちゃんのツムジが見える。
ところが、俺の心に変な興奮が起こりはじめた。
ばあちゃんの頭から、いい匂いがたちのぼってくるんだ。
なんとなく「年寄り臭い」なんてニオイがあるでしょ。
あれとは違う「活きた、明るい匂い」が俺の鼻の穴にスーッと入りこんで来たんだ。
(ヤバい。俺、なんだか変な変化が起きてる……)