第三話-13
「ウチの取り扱ってる雑誌の中で──。」
山本の話では、SNSを用いて人探しを行ってはどうかという。但し、犯人側にチェックされる事のない、個人的つながり限定だそうだが。
そういう話なら、寿明も耳にした事はある。例の震災でも、安否確認や人探しにSNSが多大な効果を発揮したという事を。
「──それでも、千人近くは居ますし、中には警察関係者も含まれてます。場所とお嬢さんの顔写真を送付すれば、かなりの確率で車の特定に至ると思われます。」
「確かに、二人で探すより効率的だが、警察沙汰にするというのは……。」
「それは、心配に及びませんわ。正式な届けでなく警ら中に調べてもらうだけで、仮に特定出来た場合、彼等なら所有者の照会から前歴に至るまで、明らかにしてもらえますから。
こちらとしては、有益な情報を得られるかも知れません。」
確かに、どのような人物か判別すれば対策も立てやすいだろうし、いざとなった時、警察も動きやすい筈だ。
「判った。君に任せるよ。」
かくして、寿明のスマホから山本のスマホへ史乃の写真が転送され、更に彼女の同業者や警察関係者、興信所々員に情報屋、それに友人、知人を含めて千人もの仲間達に、史乃を探すよう託されたのだった。
「後は、身代金の一千万円の件ですが、先生の方で御用意出来るのでしょうか?」
仮に相手が特定出来たとしても、史乃の安全を担保する為に、取引が順調なところを強調する必要があり、その点を山本が問いただすと、寿明は大きく頷いた。
「預金口座とは別に、定期預金でその位は入っている筈だ。だから、その金を担保にして借りれば、直ぐに現金は揃うだろう。」
「一千万円と言っても、一万円札なら僅か十センチ程度しかありません。ですから──。」
山本が口にした大胆な作戦に、寿明は度肝を抜かれた。
「確かに、それなら時間は稼げるが、相手を怒らせはしないだろうか?」
「そこまで、頭は回らないでしょう。それに先生が交渉された“かき集めてきた”感を、際立たせるものだと思いますし。」
「判った。銀行に訳を言って、用意してもらうよう手配しよう。」
こうして、山本の立案による史乃を救出する計画がスタートした。
寿明にとっては、急ごしらえから来る多少の不安感はあったが、何より、スピードが要求される事案な上、仕事柄、情報ネットワークを駆使する山本だからこそ成立する方法であり、アナログ人間を自称する彼では、到底、思いつきもしない内容だった。
そして、先日から献身的に仕えてくれる山本の心意気を肌で感じ、任せてみたくなっていた。
「今日ほど、君が私の相棒で良かったと思えた事はないよ。ありがとう。」
寿明の感謝の意に、山本は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「喜ぶのは、全て終わってからにしましょう。それに人事異動の際は、その言葉を忘れないで下さいね。」
「勿論さ。出版社の社長秘書とだって、交替を断る自信はあるよ。」
寿明の顔に、ずいぶんと生気が戻った。
山本江梨子という最強の援軍を得て、娘を奪還するんだとする前向きな思いが、そうさせていた。