B-4
朝のブリーフィングが終わり、パソコンのディスプレーを立ち上げると、
「あいつ、また……。」
再び、長岡からの私用メールが届いていた。
(そういや、昨夜は言うの忘れてたな。)
ともかく、これが業務違反だと知らせてやらないと、いずれ誰かの目に止まるかも知れず、下手すりゃ俺達の関係が明るみになってしまいかねない。
その瞬間、俺の中で衝撃が走った。
お前は、自己保身だけの為に、関係を隠そうというのか?──。無意識に出した考えは、俺自身を愕然とさせた。
彼女のことを真っ先に考えようとせず、社内で上手く立ち回ろうと言う考えに、頭を悩ませているだけなんじゃないのか。
(結局は、亜紀との件だって……。)
先ずは、亜紀と和巳がどうしたいのかを確認して答えを見つけるべきところを、一ミリとして考えようとせず、姉弟で、夫婦みたいに暮らす事を正しい選択だと結論づけたのも、あわよくば「自分の異常な性欲を満たしたい。」という願望からではないのか。
(なんてこった!)
自分を変えるどころか、却って助長しようとしていたと知り、自己嫌悪に陥りそうだ。
「何時まで掛かってるんです?」
いきなり、吉川から背中越しに声を掛けられ、心の準備もなかった俺は、思わず、奇声を挙げてしまった。
「──なんですか!いきなり。」
昨日の件を引き擦っているのか、俺の反応ぶりに吉川は驚きながらも、その口調は素っ気ない。
「か、考え事してる時に、いきなり声掛けるんじゃねえよ!」
俺は、声を張り上げて動揺している事を隠すと、慌てて長岡からのメールを消去した。
「ちょっと。今のって、社内メールじゃ?」
「何でもねえよ。もうちょっと待ってろ!」
不可解さに怪訝な顔になった吉川を、なんとか追い返し、俺は、注文メールに目を走らせるふりをしながら頭の中の混乱と対峙する。たった今、自分が異常な性質者なんだと知った事に、俺の心は掻き乱される。
(──ひょっとして俺は、ソシオパスなのか?)
サイコパスが精神病質者だとすれば、ソシオパスは社会的な病質者と称されている。サイコパス=殺人鬼のように思われがちだが、そんな人間はサイコパス全体から見れば、僅かな数しかいない。
むしろ、高い知性と完璧主義な側面から、著名な経営者にその要素が強いと研究者は提言する。
しかし、ソシオパスはそうではない。自己中心的で虚栄心がとても強く、何より、自己愛が過ぎる性格と言えるだろう。
そんな性格が故に、自身に注目が集まることを至上の喜びとし、その為には犯罪さえ厭わない傾向が強い。ネット上に蔓延る常に批判的な者や実社会における愉快犯の多くは、ソシオパスだという事を専門家が提言している。