『お義母さん』は、いやっ!〜「妻奈緒と義母冨実」3〜-1
バイパスのトンネルを抜け、電波の状態が良くなったところで携帯電話を取った。
「あっ、お義母さん。正樹です。きょう、そっちへ行きます」
「まさ君?、もしもし、まさ君なの?。えっ、これから?、奈緒も一緒なの?」
「僕だけですよ、お義母さん」
「あらあら、どうしましょう。奈緒、だいじょうぶかしら」
「大丈夫。詳しくは着いてから説明します。食事はいいですよ、ビールだけで」
「そうなの、わかったわ。この前と同じバスなの?」
「今日は車。今、県境を越えてしばらく走ったところ」
「えっ、もうこっちに来てるの?。じゃあ、あと1時間半ぐらいね」
「そんなにかからないと思いますよ。とにかく大急ぎで行きます」
「わかったわ。でも、事故しちゃだめよ、まさ君」
義母の声は弾んでいた。
先々週、初めて関係を持ってから、意識的に電話をしていなかった。
いろいろ考えたはずだ。
悩んだり、不安になったり……。
それらが私の電話で霧消しになったのだろう。
安堵と喜びで一気に気持ちが昂ったに違いない。
1時間余り走り、市内に入った。
もうすぐだ。
「お義母さん、今、市内に入った。あとちょっと、15分ぐらいで着きます」
「ええーっ、もうそんなに?。ガレージのガラガラ(戸)は開けたけど、お玄関は閉めてお風呂に入ろうと思ってたところよ」
「あっ、お義母さん、お風呂だめ。だめですよ、お義母さん」
「なんでなの?。きょう結構暑かったし、汗だけでも流しておいたほうがいいでしょ」
「だめだめ、僕と一緒に入るんです。絶対だめですよ。それから、下着も替えないでくださいよ、お義母さん」
「まあ、まさ君ったら。恥ずかしいじゃないの」
「いいんです、絶対ですよ。あっ、今、橋、渡ります。電話切りますね」
10分もしないうちに着いた。
玄関の鍵が開けてあった。
鍵を閉め、ただいま、と声を出した。
返事がない。
テレビの音も聞こえなかった。
灯りのついた居間の戸を開けた。
ソファに身を固くした義母が、かしこまったように座っていた。
「どうしたの、お義母さん」
「どうもしない。ただ、どんな顔でまさ君を迎えたらいいかわからなくて……」
「なあ〜んだ、そうだったのか。安心した。じゃ、おいで、お義母さん」
私は、部屋に入ったところで大きく手を広げた。
義母ははじけるように立ち上がり、小走りに私の胸に飛び込んで来た。
小柄な義母を力一杯抱きしめた。
義母も両手を私の背中に回し、すがりつくように体を押し付けて来た。
私は義母の背を、髪をなでた。
耳元に口を近づけ、ささやくように言った。
「お義母さん、待った?。ごめんね、会いたかったよ」
義母の肩が小刻みに震えていた。