新納麻由子(43)-2
俺はゲスい人間だ。
麻由子が酒席でぶちまける店長への文句を聞き、しきりと同調して麻由子の味方みたいな面をするくせに、店長ともそこそこ仲良く関係を保っている。
小ずるい処世テクニックを駆使して立ち回るのである。
陰で女遊びを楽しんでいる店長のお供につき、風俗で奢って貰ったことも何度かある。
夫のそんな部分を薄々察してはいるのだろうが、はっきりとは把握していない麻由子に、この際だからと包み隠さず暴露させて頂くことにした。
既にビールから焼酎ロックに移り、酔いが回った麻由子の耳へ、俺は店長と遊び歩いた実録を語って聞かせた。
ソープで密かに本番やったと自慢げにニヤついた店長のいやらしい顔まで眼に浮かぶよう、刻銘に伝えてやった。
「店長の金で遊ばせて貰っておいて、こんなこと言っちゃいけないんですけど……正直、こんないい奥さんがいるのに店長って酷いな、とも思いました」
「はあ〜〜、最っ低。あたしがどんだけ店のことで苦労してるか、分かってないよね、あいつ」
それとなく店長の行状に思うところはあったであろう麻由子。しかし、こうも露骨な真実を突きつけられるのは、いささかショックが大きかったようだ。
溜め息を繰り返す麻由子に、俺はことさらオーバーなくらい自分の非を強調し詫びた。
「本っ当、俺が意見するべきなのに……申し訳ないっす」
「別に寿くんは謝ることないわよ。若い独身男子なんだし、よくやってくれてるから、福利厚生の一環とでも思っておけばいいの。何なら今度はあたしから風俗代、出してあげよっか?」
冗談混じりな麻由子の言葉に、俺はすかさず飛びついた。
「福利厚生だったら、奥さんが直接面倒見てくれるってのもアリですか?」
「ヤダぁ、こんなおばさんじゃ寿くん可哀想でしょ」
「え、それって俺が嫌じゃなければ奥さんとしてはOKって意味ですよね!」
隣り合うカウンター席、可能な限り顔を接近させ俺は迫った。
「全然嫌じゃないっすよ。つーか、奥さんみたいにいい女、風俗なんかじゃ会えないし」
「えっ、ちょっと待って待って……近いからっ」
眉をハの字にして困惑顔の麻由子。その割に否定の言葉が口から出ないのは、麻由子にとっても嫌ではないという証拠と受け取れた。
俺はカウンター下で麻由子の手を握り、殺し文句を囁いた。
「飲みすぎたかな。家まで送りましょうか? 誰もいない家にね」