第二話-1
第二章
歯痒い想い
朝。史乃は目を覚ました。
カーテン越しに射し込む朝日が映す部屋の模様は、いつもと変わりない。なのに、いつもと違う自分に史乃は違和感を持った。
(今日も、見なかった……。)
それまで三日間連続で寿明と近親相姦に至り、快楽に溺れる夢を見ていたのが、ここ二日間というもの全く見ていない。
おかげで、汚したシーツやパジャマ等を隠れて洗うことも無く、朝から忙しく動き回る必要が無くてありがたいのだが、
(それはそれで、何だか……。)
然したる理由もなく夢を見なくなった事に、史乃は不可解さを募らせた。
この半年余りで見た“淫らな夢”の頻度や間隔を鑑みて、彼女なりに分析、関連付けを試みたところ、生理現象が深く関わっていると導かれたのだ。
すなわち、排卵日を迎える度に淫らな夢を見て、身体がおかしくなる可能性が高いのではと、考えていた。
これまでの慣例を当てはめてみると、今回、夢を見なくなった理由とは異なる──。だから、不可解で仕方なかった。
枕元のスマホに目を向けると、時刻は未だ午前七時前──。起きるには少し早い時間だが、今日は色々と予定があった。
「ふっ!んんんっ!」
起きようと、ベッドを出て伸びをする。
「さむ……。」
四月の中旬とは言え、朝の冷え込みは未だ々健在らしく、パジャマだけでは肌寒い。史乃は靴下を履いてロング・カーディガンを羽織ると、自室から階下へと降りて行った。
「痛たた……。くうっ。」
史乃が起きてから一時間後──。寿明は、階段の壁に身体を寄せながら、一段々、確めるような足取りで階段を降りて現れた。
苦悶の表情と絶え々の息遣いの姿に、史乃は思わず苦笑する。
「お父さん、お爺ちゃんみたい。」
「うっ、失敬な!誰が、痛たた……。」
記念日に慣れない“肉体を酷使”したツケが、今頃になって現れたようで、今、寿明の全身は筋肉痛の真っ只中であった。
二十歳代の若い頃なら運動した翌日に現れるものだが、四十歳代半ばになると、老化から筋肉痛が現れるまでが遅れ、更に、寿明のように日頃の運動とは無縁だと、多少の運動でもかなりの痛みを伴う。
一時間足らずのランニングとタイヤ交換は、多くの代償を支払う羽目になっていた。
「脇腹から二の腕、背中や足も……。何より全身が怠くて。」
ようやくリビングに辿り着き、ばったりとソファーに倒れ込んだ寿明は、怨めし気な顔で手足をさすっている。
「ちょっと検索したんだけど、ぬるま湯に三十分位浸かって、ストレッチをするのが良いみたい。」
「ほう。どれどれ。」
酷いありさまを見かねた史乃が、対処法を探してやると、寿明も興味を示した。
ぬるま湯で筋肉を温め、血液やリンパ液の流れを良くすることで、筋肉痛の原因である疲労物質を軽減させ、ストレッチで固まった筋肉をほぐしてやると効果的だとある。