シャリィ・レアリル-8
気がついたら私は城の屋上にいた。
私はどうするのだろう。このまま飛び降りるのだろうか。
自分をそんな風に冷めた感情で見る一方で、それも良いと思っている。
けども一番頭を占めている感情は・・・形にならない、頭がぐちゃぐちゃになる感覚だ。
もう、何も・・・考えられない・・・!
「おっと!死なれたら流石に困る」
「・・・っ!?離して!!!私なんて、私なんか!!!!」
勢いのまま身を投げ出そうとした所で・・・悪魔に腕を掴まれて引き留められる。
けれど頭の中はぐちゃぐちゃで、この悪魔へ対する感情も整理できない。
恐怖?恨み?妬み?怒り?
もしかしたら全て沸いているのかもしれない。
ただひたすら暴れ回っていると唐突に顎を掴まれ、唇を塞がれた。
「んぐっ!?」
キスだ。
一瞬動きが止まったのを見計らい腕の拘束を解かれたが、両手で顔をつかまれ熱くキスをされる。
目の前にあるのはいつになく真面目な表情な悪魔の顔。
普段はニヤケ顔ばかりだというのに今だけは整い、冴えた表情をしていて。
けども舌の動きがとても激しい。
私の舌を絡めとろうと激しく、口の中を暴れ回ってくるのだ。
「あふっ、ふっ・・・あふっ!」
上手く呼吸ができないからか身体がどんどん熱くなってくる。
けれど悪魔は私の舌を絡めとろうとしてくるのを止めない。
悪魔の唾液が口へと沢山流れこんできて喉の奥に、胃の中へとどんどん侵入してくる。
感覚が研ぎ澄まされているのか唾液が私の中へと浸入してくるのを強く感じてしまう。
舌を逃がそうと動かしても、悪魔は執拗に追いかけて絡め取ってくる。
熱い、熱い、熱い!!!
私の身体が火照り、熱くなるのを感じるがそれ以上に悪魔の舌が熱い。
するはずもないが、火傷してしまうんじゃないかと錯覚するほどに熱を感じる。
「ぷはっ・・・。少しは落ち着いた、かな?」
「はっ、はっ、はぁ・・・ッ」
ようやっと唇が解放される。
けれど両手で悪魔に優しく抱きしめられて動けない。
今の出来事のせいで私の呼吸は乱れて犬みたいに息を吐いている。
それがどうしようもなく恥ずかしくて悪魔から離れたくなるが、背中に両腕を回されて優しく抱きしめられてしまい暴れても離れられない。
「離して!私は、私はもう・・・」
「キミに死なれたら困るからね。離さない」
「女が欲しいなら他にもいるでしょ!?私なんか放っておいてよ!!!」
「けど、シャリィという女性はキミしかいないだろう?」
優男がかけるような在り来たりな言葉。
普段ならそんな寒い言葉、恥ずかしくないのかと笑い飛ばしたくなるが今は何故か聞き入ってしまう。
「キミには理解できないのかもね、性欲に溺れたこの城の現状が。
ワタシは女が好きだし、色んな女を抱く。けれどワタシはキミも愛し、抱きたいのさ」
「・・・っ!!!」
発言は酷く身勝手な腐った男そのものだろう。
こんな言葉に心を許す女がいると思っているのだろうか。
けれどその瞳は私を真っ直ぐ見ていて離さない。
瞳に曇りはなく、本心を伝えてくれているのは分かる気がする。
・・・誰かが私を見つめてくれているのはいつぶりだろう。
エリザの瞳に私はもう映らない。
けども悪魔の瞳には真っ直ぐと私が映っているのが分かる。
「別にワタシを好きになれとは言わない。けど死に逃げるなんて事をせず、ワタシに抱かれるだめに生きてくれないか」
「何よ、それ。凄く酷い発言しているわよ」
あまりにも真面目な顔をして馬鹿な事を言うものだからついクスッと笑みが溢れてしまう。
悪魔に対してとてつもない怒りが沸く一方で、思春期の少年のようにあまりにも性欲に貪欲で馬鹿な発言に毒気を抜かれはじめていた。
あるいはこの貪欲な性欲を理解するのも馬鹿馬鹿しい、と思いはじめたのが気が楽になってきたのか。
けれどエリザが狂ったのも元はと言えばばこの悪魔が原因だ。
それを考えたら怒りはいくらでも沸いてくるけれど・・・。
・・・いや。エリザは確かに狂ってしまったけどもこの悪魔はきっかけを作ったにすぎない。
この悪魔は心を操る薬も魔法も使わず、自ら手を下すワケでもなくエリザを堕としていた。
エリザを捕まえる時に私を操り、騙し討ちをさせただけ。
周りの雰囲気に呑まれ、性に溺れ、魔物へ心酔したのは・・・。
彼女がそういう軽い女だった、というだけなのだろう。
遅かれ早かれこういった出来事に遭わされていたのかもしれない。
魔物相手ではないにしても、どこぞの知らない男にほだされ、男に溺れ・・・。
今のようにあっさりと見捨てられていたのかもしれない。
そう考えたらエリザに対する拘りが薄れていって、気持ちが少し楽になった気がした。
「・・・いいわ。抱かれてあげる」
エリザへの憂いもなくなった事で私は・・・目の前にいる悪魔を改めて見つめる事ができた。
ほとんど破れかぶれだけども、エリザへの拘りがなくなった今ならこの悪魔に抱かれるのも悪くない・・・。
そう思うようになった。
どうせこの悪魔から逃げ出せないのだ。
だとしたらご機嫌取りのために、少しくらいこの悪魔に付き合うのも悪くないのではないだろうか。