エリザ・ヴィーリス-3
シャリィが行方不明になったと聞いたのは彼女が巡礼のため街を出て行った五日後の事だった。
勿論、そんな話しを聞かされてはエリザは冷静でいられない。
「何よそれ!?シャリィが行方不明ってどういう事!?」
「お、落ち着いてください。行方不明になったのは彼女だけではないですし教会側も困惑してるんです・・・」
「教会の事はどうでも良いの!早く事情を説明して!」
汗だくになった中年の神父はエリザに気圧されながらも説明した。
教会から今回の巡礼に出た人数はシャリィを含め5人。
近くにある教会もない小さな村などを複数、一週間かけて巡り回っているのだが途中で村の女性が魔物に攫われたと聞かされた。
丁度村にいた冒険者たちが救出に向かう事になったのだが癒しの魔法を使える物がおらず、同じく偶然居合わせたシャリィ達に協力を頼んだのだとか。
しかし、そのまま冒険者もシャリィ達も帰ってこないというのが現状だった。
「場所は何処!?私が見てくる!!!」
「ひ、一人では危険で・・・」
「いいから!教えて!」
頼りなさげな中年神父から場所を聞き出したエリザは勢いのまま件の場所へと向かった。
場所はいろんな魔物たちの屯する廃城。
本来なら強い魔物も出ず、危険度も低い場所だったが・・・エリザが目にした光景はとても異様な物だった。
「何よ、これ・・・」
廃城に来るまで冷静さを欠いていたエリザだったが、その異様な光景を目にして流石に落ち着きを取り戻した。
その城周辺は空に赤い霧、周辺には毒沼のような禍々しい紫色の大地。
そういった物に囲まれ、廃城ではなく『魔城』と呼ぶにふさわしい景観をしていたのだった。
今すぐにシャリィを助けにいきたい。
けどもこんな状況の城に一人で行ってなんとかなるのか。
応援を呼んでいるうちにシャリィの身に何かあったら・・・などと考えると何も行動に移せなかった。
とにかく少しでも何か情報を得ないと・・・と思いながら遠くから城の様子を伺っていると城門から見慣れた人物が出てくるのを見つけた。
「シャリィ!!!」
今回シャリィは冒険者ではなく、教会の一員とし巡礼に出て行ったので防具も何もないシンプルなシスター服だった。
しかしそのシスター服は見るからにボロボロ。
それも力任せに引っ張られ、破られたかのような荒れ具合でシャリィの白い肌がチラホラと見えている。
エリザと違い、普段は綺麗に整えている金髪も今ばかりはボロボロ。
相棒であり、愛する人でもあるシャリィのそんな姿を見てエリザはいてもたってもいられず、直ぐさま駆けつけた。
シャリィは城門前で倒れ込み、駆けつけたエリザに抱き起こされる。
服はボロボロで汚れも目立つが傷はほとんどないようで少しだけ安堵した。
「エリ、ザ・・・」
「大丈夫!?すぐに安全な場所に連れていくか・・・んぐっ!?」
抱き起こしたシャリィは微かに意識があり・・・今にも消えそうな儚さをしていると思ったら突然キスをされた。
心細さや不安からきた安堵を求めるキスなどであれば問題ない。
けども騙し討ちをするかのような唐突なキスに戸惑いを覚えずにいられなかった。
けどもシャリィのキスを拒めるはずもなく。
気がつけばドロっとした液体のような物を口に流し込まれ、無理矢理飲み込まされてしまった。
「けほっ!?しゃ、シャリ、ィ・・・?」
「ふふ・・・」
エリザの身体からどんどん力が抜けて頭が真っ白になっていく。
二人で行為をしている時のような甘い意識の薄明化でもない。
口に流し込まれた何かによる作用だとエリザは思った。
「シャリィ、だよね・・・」
「勿論。迎えに行く手間が省けて良かったわ。だって・・・」
偽物とかではない。
穏やかで。けどもエリザにだけ見せる艶めかしい表情で見つめてくる。
確かにそこにいるのは相棒であり愛する人でもあるシャリィ・レアリルのはずなのに。
「エリザにもご主人様の良さを知って欲しかったの。できればご主人様を独占したいけど・・・やっぱりエリザと一緒の方が私も嬉しいわ」
シャリイはエリザを優しく地面に寝かせると立ち上がり、いつの間にか現れていた黒い影の人物に寄り添って彼女にしか見せなかったはずの艶かしい表情をその人物に向けていた。
チラリ、とエリザにも視線を向けるがオマケ程度の視線。
エリザにほとんど興味なさげに、黒い影の人物に対して媚びを売るような視線を送っている。
こんなのシャリィじゃない。けれど確かにシャリィだ。
薄れゆく意識でそんな事を思いつつエリザはシャリィに手を伸ばすが・・・。
「ん・・・っ!んはっ・・・!」
シャリィはエリザを気にも止めず黒い影の人物と熱いキスを交わしていた。
とても熱く、情熱的な。心から愛する相手へのキスをする事に夢中になっている。
エリザはその光景を見せつけられて、心にするどい傷みが走りながら気を失った。