文香-12
「それじゃ端から着ていくね」
「その下着も買ったのか?」
「あ、これ? そう。気に入った?」
「そうだな。ヒモが透明なのはいいな。実にいい。ちょっとこっち来い」
「うん。何?」
「カミソリ持ってるだろ。出せ」
「何するの? 怖いことしないで」
「馬鹿。毛を剃るんだ。忘れてたから」
「あ、そうか」
「ハサミもあるだろ」
「うん」
「何か敷くもん無いか?」
「スカーフでいい?」
「新聞の方がいいな」
「じゃ取ってくる」
「まあ、フーちゃんいたの? 何て格好してんの」
「ああ、新聞頂戴」
「裸で新聞読むの?」
「違う。いいから頂戴」
「はい。靴があったけど誰か来てるの?」
「うん。竜ちゃん」
「竜ちゃんて、この間来た子?」
「うん」
「それじゃ後で母さんも挨拶しに行くから」
「うん」
「フーちゃん、その肩の傷は何?」
「ああ、これ。何でも無い」
「何でも無いって歯の形じゃないの」
「そう?」
「竜ちゃんて子?」
「うん。いつも咬むんだ」
「へー。まあ、子供が出来ないように気を付けなさいよ」
「いいんだ」
「何がいいの?」
「結婚するから」
「結婚? そんな所まで行ってるの?」
「分かんない。でも結婚したくなるってこの前言ってた」
「結婚したくなる? どういう意味?」
「分かんない。竜ちゃんに聞いて」
「母さんが帰ってた。裸見られちゃった」
「まあ、母さんなら見られてもいいだろ」
「この傷なんだって聞かれた」
「犬に咬まれたって言えばいい」
「竜ちゃんに咬まれたって言っちゃったよ」
「そうか。まあ事実だからしょうが無い」
「新聞どうすんの?」
「拡げるからパンツ脱いで此処に座れ」
「うん」
「正座してどうすんだよ。それじゃ剃れないだろが」
「ああ、それじゃ寝る?」
「そうだな、その方がいいかもな」
「足拡げる?」
「うん」
「フーちゃん、入っていいかしら」
「何?」
「ちょっと入るわよ。あらっ」
「やあ、又お邪魔してます」
「私の方がお邪魔したみたいね」
「いや、毛を剃ってるだけですから」
「何で剃ったりするの?」
「小さいパンツ穿くから毛がはみ出ちゃうでしょ」
「小さいパンツ? あら、あれはパンツだったの? 私はティッシュでも貼り付いてんのかと思った」
「はあ」
「母さん何?」
「別にただ挨拶に来ただけ」
「母さんに見られてるとちょっと落ち着かないな」
「それはそうでしょ。素っ裸で足拡げてるんだから」