人生最後のオナニー-2
用意されていた白いタオルローブを羽織って、また卵のある部屋に戻ると、もう準備が完了しているようだった。
「……それじゃあ、はじめる」
淡々と抑揚のない少女の声で、僕も最後まで燻っていた不安を端へと追いやった。
もう後戻りはできないから。
彼女に支えてもらいながら、慎重に卵の中に入る。
中は思ったより快適だった。布かれていたクッションは高級な羽毛布団のように柔らかくて、足も伸ばせるくらいの大きさがあった。
僕はリクライニングシートを倒してもたれかかったような体勢で、それをあの子は立ったまま眺め見ている感じだ。
「……ローブを脱いで、裸になって」
そう彼女からじっと見つめられながら言われると、僕は少し恥ずかしく感じた。
でも彼女の顔は無関心という感じで、ただやるべきことだけやっている。そんな風に見える。
僕はゆっくりと身をよじりながらローブを脱いでいって、それを彼女に手渡した。
生まれたままの姿になって、ごく自然に手で股間の部分を隠してしまう。
だけど肌に直に触れるクッションは、絹のような感触がくすぐったくて気持ち良く感じた。
「……機械を閉じる」
そう言って、彼女は装置のスイッチを入れたようだ。
……ピーッ!
甲高い笛のような音のブザーが鳴って、卵全体が淡く光りだす。
ガコンと重い音が響くと、徐々に開いた殻が閉じていく。
もう少しで僕は女の子になるんだ。
そんな期待と僅かな不安が混ざり合う僕の複雑な感情と一緒に、僕は卵に閉じこめられた。
閉じられても、中はぼやっと光っていて、自分の身体も分かるくらいに明るかった。
……プツン……ガガ……。
そんな音が中で響いたと思えば、次に聞こえてきたのは彼女の声だった。
「……これより、EGGによるMtoF性転換プログラム起動治験を始める」
僕は医療ドラマに出てくるような、手術シーンを思い浮かべた。思わず僕は頭を少し下げてしまった。
「……起動開始」
その声と同時に、卵全体から機械音が響き渡る。何かが高速で回転しているような高い音、何かと何かが激しくぶつかり合う鈍い音、下の方から突き上げてくるような低い音。
この音に心の期待の部分が不安の影に覆われていきそうなのを感じた。
これから何をするんだろう。そう思ったときだった。
鼻に何か甘い匂いが触れた。
花の香水のような、甘い蜜のような、ほんのり乳製品も混ざったようにも感じる。
その匂いのせいか、僕の心から不安が徐々に消え去っていった。
だけど同時に、身体中が、特に股のところが凄く熱く感じだした。
まるで全身の血が身体中をいつもよりも激しく駆け巡り、その血が下半身に集まっていくような感じ。
「……性的興奮上昇。精子排出開始」
そんな声が聞こえきて、甘い匂いが少し強くなる。すると急に胸がドクンといいだした。
なんだか落ち着かない気持ちになる。なんだか頭もボーッとしてくる。
そして僕の下半身を見ると、僕のペニスが今までに見たこともないくらいまで大きく反り立っていた。
はちきれそうと言ってるみたいにプルプルと震えて、先からは先走りの汁がだらしなく垂れて出てくる。
「あ……鎮めないと……」
それを見て僕は堪らない気持ちになって、震える手で弄りはじめた。
触れた瞬間、頭から全身へと電流が走った。
それは今までに感じたことのない感覚だった。僕はそれをもっと追い求めていくように、夢中になってさすり続けた。
こすればこするほど、その快感が大きくなって、気持ち良いを伝える信号が頭の中で乱反射していた。
「ハア……ハア……落ち着かせるだけ……落ち着かせるだけ……」
それでも止めなくちゃいけないという理性と、もっと気持ちよくなりたいという本能が正面衝突して、それがまた僕の気持ちを煽っていく。
「……濃度上昇」
「……!?あ……アアアァァァ!!?」
その声が合図となって、匂いがさらに強くなる。それをきっかけに僕の理性が弾け飛んだ。
本能のままに手でこすり続ける。
手の動きだけだと物足りなくなって、腰を動かしはじめる。
息が荒くなっていく。頭の中で様々な感情が混線を起こして、感情を司る神経がショートを引き起こし、涙が止まらなくなる。
「あ……苦しい……よぉ……」
股の一番奥から熱いマグマのようなものを感じた。僕はそれを抑えることができずに、爆発した。
「アアアアアァァァァァ……!!」
玉が破裂して、そこに詰まっていた精液全てが一気に出て行くように、狭い管を無理やり押し出すようにして噴き出していく。
……ビュル、ビュルビュル……。
今までの射精でもこんな音を聞いたことがなかった。作り物のだけの擬音だと思っていたのに、ホントにそんな音が僕の耳に届く。
それは今まで感じたこともないような快楽だった。今までのオナニーでは感じたことないような、とても長く続いて、最後は気がおかしくなるほどの、最初で最後に感じた、生まれて初めての快感。
気が遠くなっても、まだ精液が噴き出していた。身体から精液も玉も、全て外へと追いやろうとしているように。
卵の中が僕が出した大量の精液の臭いとあの甘い匂いとが混ざり合って、僕の鼻を刺激する。
僕はそれをとても懐かしいと思いながら、意識が遠のいていった。