亜美-6
「何時に来たの？ 会社に」
「１２時丁度に来ました」
「３時頃に来ればいいのよ」
「はあ、水田さんからもそんなことを言われました」
「ランチで良かった？ もう中田君の分も頼んじゃったんだけど」
「ええ、ランチで結構です」
「今日はね、縄師の所に行くことになってんだ」
「縄師って何ですか？」
「女を縛る専門家」
「女を縛る専門家ですか」
「そう。男を縛ることもあるのかな？」
「そんな職業があるんですね」
「職業とまでは言えないわよ。縄師なんて言ったって、それだけで食ってる訳じゃないし、それの稼ぎなんて殆どないと思うよ」
「はあ、すると本業は別にある訳ですね」
「そう。本業は学校の先生」
「学校の先生？」
「そう。だけどそれは勿論秘密」
「はあ」
「縄師の話なんて目新しくも無いし、まだ迷ってるんだけど、行ってみていい記事になりそうだったら掲載しようかと思ってるの」
「はあ」
「いろいろ写真を持ってると言うからそれを見せて貰いながら話を聞くんだ」
「それじゃカメラは要りませんか？」
「カメラは必需品。撮影する予定がなくても持っていくの」
「はい」
「カメラはデジタルだっていうんだけど、使える？」
「はい。大丈夫です」
「それで少しは落ち着いた？」
「はあ。さっき水田さんから凄い話を聞かされちゃって」
「凄い話し？」
「石井さんがうんこを体中に浴びたっていう話しです」
「ああ、あれか。あれは本当に凄かった」
「それでちょっとびびってる所です」
「大丈夫よ。私は５年やってるけど、あんなことは初めてだから」
「赤尾さんは水田さんよりも長いんですか？」
「そうよ。私は蝶書房の最古参。はめられたのよ」
「はめられたって、どういう意味ですか？」
「取材記者が女だっていうとそれだけで記事が面白くなるっていうの。それで男性スタッフは２〜３年で別の雑誌に移動するのに私だけは移動してくれないの」
「はあ、そうですか」
「でもいいけどね。私この仕事気に入ってるから」
「そうなんですか」
「そう。時間の自由が利くし、古手だから我が儘が言えるのよ」
「ああ、なるほど」
「この仕事の心得は聞いた？」
「いえ、特には」
「そう？ いつも綺麗な新しいパンツを穿いておくことよ」
「どうしてですか？」
「いつ裸になるか分からないからよ」
「裸になるなんてことあるんですか？」
「取材の相手が大体裸でしょ？ そっちも裸になれって言われることが多いのよ」
「はあ。そう言われたら裸にならないといけないんでしょうか？」
「まあ、その時の雰囲気というか、そうならざるを得ない場合があるの。服を着てる人がいるとぐずぐず言ってなかなか裸にならない女性がいたりしてね。それにあっちは裸になっても寒くないように部屋を暖かくしてやってる訳だから、其処で服着て取材なんかしてると暑くてどうしようもないことが多いの」
「すると赤尾さんも裸になって取材することがあるんですか？」
「私？ 私なんか取材の対象にさせられちゃうのよ。私の恥部を見ることになるって言ったでしょう？」
「は？」
「だから中田君も裸になるくらいで躊躇してたら駄目よ」
「はあ。今日はまさかそんなことないでしょうね」
「今日はＳＭプレイの取材じゃないからそんなことはないと思うけど、どうして？ 人に見られたくないようなパンツ穿いてるとか？」
「いや、別にそんなことは無いですけど、ただ聞いただけです」