君と僕との狂騒曲-34
「あのさあ」
「んー、なあに？」
小さなカンテラの光が揺れている。君は僕の左腕を優しく愛撫しながら言った。
「なんでケンピの身体はこんなに傷だらけなの？」
「まあ時間の問題だったな。」僕は倒れ込んだ。
「いつ言われるのか、時間の問題」
「なんで？」君はカンテラの光で僕の左腕を見つめながら、不審な表情を浮かべた。
「それは僕の烙印。それは僕自身の記号。生け贄のしるし」
僕は自分の長い髪の毛をつかんで下に引っ張って呻いた。
「僕が生きている事実を証明した手形だよ」
君はカンテラを持ち上げると、僕の胸や腹を照らした。
「酷いな」君の表情が歪む。焼けただれたロゼッタ・ストーン。文字から文字に薄い傷が鉄道のように繋がっている。
「僕は見せ物じゃなくって」僕は君に抱きついた。
「正真正銘、君の恋人なんだよっ」
そしてもう一回、君自身を含んだ。たちまち硬く、大きくなる。口が一杯に押し広げられるって、快感だ。君の身体が歓んでいる証拠だから。もっと深く、もっと。僕は喉の奥まで君を迎え入れた。もう覚えてる君の性感帯。腰骨と隆起と、脇腹。君は身体に刻まれた快楽を受け入れる。そうだよね。
僕たちはすぐ言葉を無くし、くぐもった唸りとぴちゃぴちゃした音だけになる。僕の傷の事なんて忘れさせてやる。マキ、君は僕のものだ。
*
日本ジャンボリーが終わって、僕らは「受験モード」に入った。
君と僕と大嘘はときたま、スカウトハウスで泊まり込みの受験勉強をした。バッカーノはもうある大学の附属高校へ進学が内定していたので、受験勉強の必要がなかった。
でも実際は僕がウイスキーを飲んで適当に、大嘘はクラスの女の子の特徴や、あいつは誰とでも寝る、とか、ひたすら妄想を繰り返していた。なんとも健全なやつ。
君だけ真面目に勉強していた。罪深い僕。でも、酔っぱらってでもないと勉強なんて出来なかったからね。実際には僕が英語で苦難して居るときに君に教えて貰い、君が数学で難渋しているときに僕がアドバイスした。お互い、なんでこんな事が解らなかったのだろうと思う事ばかり。学問ってのは互いを知るためにあるのかも知れない。
*
君と僕はたまにキャンプをした。完全に後ろ暗い目的でだけど。森の香気は僕らを変え、世間とか礼儀とかくだらないものから完全に離れてしまう魔力を持っている。マイホーム・ヴァレーは、物理的にも精神的にも、世界を下界にするプリズムのような効果を持っている。ターペンタインは麻薬に似ていた。
君とのキスはいつも心を揺さぶったし、君を含むときは幸福だった。「秘密」っていうのが「恍惚」になる瞬間を、僕らは同時に体感した。僕たちはいろんな事で快楽を貪ることに熱中した。僕らの快楽がどんどん広がり、心がひとつになってゆくと、次のステップが見えてくる。やがて、そういった知識では数段上の僕が、君自身と繋がることを提案するのは、そんなに不思議な事じゃない。
「冗談じゃない」君は自分の頬をぴしゃりと叩いた。
「僕だって冗談じゃない。ねえ」
僕は君の首に跡が残るぐらい強いキスをした。
「そんなの、変態じゃない」
僕は大笑いをした。涙が出た。
「僕らがその変態なんだよ、可愛い坊や。僕はもっと満足したいし、君ももっと満足したい。さあ、もう一つのハードルを超えてみよう、今夜！」