君と僕との狂騒曲-28
東京地区の入口でへたりこんでいたら、なにか薄い水色のものが陽炎の中に揺れていた。ふうん、こりゃ面白い。
僕は急いでテントに戻り、素早く服を着て長靴下に赤いガーターを止め、ネッカチーフを巻き、目深にハットをかぶった。入口に戻ると、こんどははっきりその姿を見ることが出来た。そして背筋を伸ばし、道の中央で敬礼をして待った。五人のガールスカウトはそれぞれ魅力的だった。最もこんな男所帯で三日も経てば、どんな女だって50%ぐらいアップで綺麗に見える。
僕は彼女らの五メートルほど前で、優雅にバレリーナのお辞儀をした。少女達はけらけらと笑い、面白がっている。いい線だ。
「フロイライン、こちらは東京地区のキャンプでございます。よろしかったら冷たいお茶でもいかがですか?」
彼女らはますます面白がって「ご招待頂けますの?」と僕に答えた。
「それはもう。皆寂しい男どもでございます。どれほど喜びますでしょうか。では、少々お待ちを。」僕は脱兎のごとく坂を駆け上った。
「おーい、おまえら。ガールスカウトのお出ましだぞ。命と名誉が欲しかったら冷たい麦茶を用意しろ。失礼のないようにな。言っておくが着替えている暇はないぞ」
連帯感のない集団は一挙に狂乱状態になり、突如として鉄の結束を誇る騎士団になる。テントに戻るか、残るかを決めかねて右往左往する奴、クーラーボックスに飛びつく奴。テーブルにからみついて地面に叩き付けられるやつ。僕は腹式呼吸の発声による抜群によく通る声で命令した。
「お姫様達は白く美しい肌をしていらっしゃる。ちゃんと陽のあたらぬ涼しい場所を作れ。そばかすを作らせるでないぞ。お茶菓子を忘れるな。隠しているものは全て出せ」
再び入口へ。短い坂を登ってくるガールスカウト。今度は執事のように出迎えた。
「どうぞ、こちらへ。むさ苦しい場所ではありますが、ようこそ、われらのキャンプへ」
ふりかえると、なるほど。出来は悪くもやはりボーイスカウト。全員直立して並び、三つ指の敬礼でガールスカウトを待っている。食堂の中央には簡易テーブルがふたつ連結され、パイプ椅子の背には犬の毛皮がかかっている。いままで誰がどんな使い方をしてたのか考えると嫌になるが、まあ、合格かな。