星を数えて act.5-5
もう 忘れなきゃでしょ
叶
「じゃあ、お願いします」
そう言い返したとき、自転車は誰かを追い抜かした。
「叶……」
バッと後ろを振り返る。
確かに聴こえた、
「崇…」
彼の声。
忘れなきゃ なのに
まだこんなにも
こんなにも胸が痛いよ
「何か言った?お姫様?」
「いえ、何も…」
かすれてた気がした。崇の、冷たくて揺るがない声が、震えていた気がした。
「ねぇもっとスピードだしてよ王子さま!」
「はいはい」
グッと、ペダルに力が込められる。どんどんとスピードをあげて、それから私の痛みもスピードをあげた。
もう 振り返らない
きっと
きっと 忘れてみせるから
だからもう
思い出さなくていいんだよ
今まで
苦しめて ごめんね
next.