星を数えて act.5-3
いたくないの。
私はあなたの
織姫 じゃないから
「……そうか」
まぁ、俺謝ろうと思っただけだから、ごめん。
そう言ってカンカンと階段を降りていった。
「崇……」
あなたが忘れてしまったなら
私も忘れるから
それで いいよね?
「叶行くよー」
「あ、うん」
聡子や月子が私を呼ぶ。
バイト先は家の最寄り駅にある焼肉屋さんにすぐにきまった。何でも、月子の知り合いがバイトしている店らしくて、今朝の月子の電話一本で話はまとまった。
「勝手に電話してごめんね?」
「ううん!決まってホッとしたよ。ありがとね!」
階段を降りて廊下を他愛もない話をしながら歩いていると、ガヤガヤと話し声が前のほうからも聞こえてくる。
そのなかにまじる
聞きなれた、低い甘い声。
「ね、たまには向こうから行かない?」
「えー遠回りじゃん」
「いいから行こう!」
嫌がる聡子を引っ張って道を変えた。
前は月子にかえる?ときかれて変えなかった道。月子は、私を見て哀しい表情を浮かべている。
きっと、私がつらいのをわかってくれてるんだろう。
道をかえたとき、崇が一瞬こちらをみた気がした。でも、もう関係なかった。
見るだけで切なく苦しくなってしまう。
忘れなくちゃ いけないのに
忘れるんだから
もう 終わったんだから
「いらっしゃいませ!」
「そうそう、それくらい元気に挨拶してくれたら大丈夫だから」
新しい店長に軽く挨拶を教えられる。こういった仕事は私は得意なので、すぐにOKがでてホールにうつることができた。
「塩タン1とカルビ2です〜」
「はいよー!」
威勢のいい店の雰囲気。私は声を出すことで、少し傷の痛みがやわらいでいるような気がした。
と、突然に肩をトントンとたたかれる。私は驚いて振り向いた。