忘れ物-4
「な、何をいまさら…。」
そう反論した友里だが、ローブを捲る手が止まった。
「確かにね。窮屈でたまらないグレーのワンピース、何かを訴えかける瞳。このままにはしておけないと確信した。」
「だから…。」
「そう、連れて逃げた。」
「だったら最後まで…。」
「アイツ、たぶん生きてる。素人の僕の一撃がまぐれ当たりしたぐらいで死なないよ。」
「まあ、そうだと思います。」
「でね、ああいう社会的地位のある人間は体面を強く気にする。自分の嫁が逃げて他の男と、となったら、どこまでも追いかけて捕まえるだろう。そして離婚なんかしない。カッコつかないからね。一生飼い殺しにするんだ。」
「…やりかねません、あの人なら。」
「幸い、二人が逃げた瞬間をアイツは見ていない。僕が一方的にさらったと思うだろう。被害者として扱われるんだ。今なら君は元の生活に戻れる。」
「私、もう帰らないと言いましたよね?」
僕は大きく頷いた。
「そう。でも、互いの気持ちを知ってしまった今、平穏ではないかもしれないけど元の日常へ帰った方が最良の選択に思えるんだ。」
「そんな…。」
「窮屈で酷い目にあっている君を開放したくて連れ出した。頃合いを見てどこか遠くへ逃がそうと思っていた。でも…。気持ちを知った上に体を重ねてしまったら、じゃあね、とお別れなんか出来るか?僕は…。」
「先輩…そこまで考えて…。」
友里は動かない。動かない。動かない。え…。
バサッ。
「なな何してるの!」
友里がローブの前を全開にした。白い胸が大きく弾んだ。先端が尖っている。
「これが、私の答。そして、覚悟です。」
ローブを掴んでいる手が微かに震えている。覚悟を示したとは言っても、初めて僕に胸を見せたのだ。恥ずかしいに決まっている。
「ダメだってば…。」
「これでは足りませんか?」
友里はベッドに背中を預けた。そして膝を抱え上げて足もベッドに乗せた。ローブがハラリと捲れ落ち、その奥の何の飾りもないシンプルな白いパンティが剥き出しになった。
「何を…。」
「見て下さい。私がどれだけの覚悟をし、先輩に抱かれることを望んでいるのかを。この中を見てもらえれば分かるはずです。」
中を見るまでもなく、そこは彼女の感情を雄弁に語っている。シャワーの後に湧き出した湿り気のみならず、既に着いていたシミが、彼女の苦悩と希望を表している。
「見て下さい。」
そう言って友里は左の太腿の裏側から左手を回し、右太腿と足の付け根の間にあるパンティの淵に指をかけた。
横に捲ろうと力をかけた。
「ねえ、須藤さん。」
「なんですか。」
「そこを見せてしまったら、僕はもう止まれないよ。」
友里の指が逡巡するように揺れ始めた。
「君には夫がいる。どんなヤツだろうとも、君は彼の妻なんだ。裏切れるのか?今まで共に暮らしてきた彼を。」
友里の指は揺れ続けている。
「してはいけないこと、と分かっているね?それでも僕にそのカラダを委ねたいというのなら、捲って中を見せて。」
パンティの淵を掴んだ友里の指先は、揺れながら、躊躇いながら迷いながら、少しずつ力を込め、布を横へと捲っていった。
縮れた黒い陰毛がはみ出し、色黒の肌が見え始め。
「もう戻れないよ。」
さらに捲ると、大きな丘を越えて細い溝、そしてブヨブヨの唇が姿を現した。
「今ならまだ、やめられる。」
ガクガク、ガク。
友里の指が一段と大きく揺れ始めた。
「捲ってしまうの?それを。」
スッ。
友里は、一気に捲りきった。
友里の全てが、僕の目の前にあった。