邂逅-2
「覚えてないと思うんだけど。」
高三の夏。僕は体育でグラウンドを走っていた。
せんぱーい、っと呼びかける女の子の声が聞こえて振り向くと、教室の窓から友里が手を振っていた。
僕は視線を逸らした。そしてもう一度友里の方を見た。彼女はもう一度手を振った。どこか思いつめたような表情で。僕は再び目を逸らし、そのまま走り続けた。
クラスメートたち大勢の目に囲まれて単純に恥ずかしかった、というのはもちろんだが、手を振り返せない理由が僕にはあった。
部活を引退していた僕は、それ以降友里との接触がないまま卒業した。
「覚えてますよ。とてもよく覚えています。」
「そうか…そうだよね。せっかく手を振ってくれたのに無視しちゃったんだから。恥ずかしい思いをさせてごめんね。」
友里は少し寂しそうに、ふ、っと笑った。
「いえ、私こそいきなりあんなことをしてしまって。すみませんでした。それを謝りたくて。」
「え、じゃあ二人とも同じ話だったの?」
「そうみたいですね。」
しばし見つめ合った。
「あのね、」
「あの、」
また同時。二人とも笑ってしまった。
「席替えターイム!」
「えー!合コンじゃないのよ?」
「だってみんな動かないし。」
「まだ酔ってないからなあ。」
「あら、酔わなきゃ私の隣に来れないわけ?君。」
「せ、先輩…そんなわけな、くはなかったり。はは。」
「いいから来なさい。」
「はいー。」
とかなんとか。みんなゴチャゴチャになってしまって。
結局、友里とはそれ以上の話は出来なかった。