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時間
【その他 官能小説】

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時間-5

(5)


 体もよく拭かないまま、もつれるようにベッドに倒れ込んだ。
「ああ!」
唇を吸い、舌を絡め、肌を確かめ合った。

(京子を抱いている)
その実感に酔った。
(60歳……)
体を貪ることはなく、温もりと柔肌を味わい、彼女の蠢きと息遣いを感じていた。

「こんなことって、あるのね……」
息の合間に京子の言葉。
「60歳でも、ときめく……」
溜息のように言った。
「ときめくよ……ときめく……」
(これからの時間を満たしたいんだろう?……京子)
それは、理解できる。だが、私は過去をも重ね合わせて京子を抱きしめていた。初恋の甘さ、上履きに残っていた体温。甦った記憶が今に入り組んで昂ぶっている。

 乳房に顔を埋めた。
「あ、あ、」
乳首を口に含む。
「ああ、だめ……」
舌に触れる感触。転がす度に京子は伸び上がる。
「感じちゃう……」
唇を下腹部へと這わせていく。細い体が反応する。うねる……強張る……。

 肌の張りは、
(若い……)
そう思った。
「だめ……」
体をよじったのは股間に差し掛かったときだ。しかし、意志を持った抵抗ではない。
 動く腰回りを抱え、唇は秘唇に迫った。陰毛に白髪が混じっている。
(京子……)
そこには60歳の『女』があった。
 草むらは薄い。
(濡れている)
割れ目には明らかな『女の露』が滲み出ている。

 口を押しつけた。
「いや……」
京子の両手がシーツを掴み、脚が開いていく。
 かすかに淫臭が漂う。
(京子のにおい……)
体臭がそれぞれ異なるように、皆、秘部も微妙にちがう。

 舌を差し入れ、裂け目、突起を愛撫し続けてほどなく、京子は全身をわななかせて到達した。
 痙攣する体の動きは私に伝わり、京子の命を感じていた。

 起き上がって脚をいざなうと京子は自ら開いていく。目は閉じ、朦朧としながらも迎える体になっていった。
 京子が身を投げ出している。……

 宛がって押し入りかけ、京子の脚が閉じかかった。
「ちょっと、こわい……」
「京子ちゃん……」
「久しぶりだから……」
「大丈夫」
腰を支え、押し込んだ。
「うう……」
(ああ……)
舐めるような挿入感。
さらに割って、重なりながら納まった。
「ああ!」
膣襞が絡んだような心地よい圧迫に包まれる。

 動き始めると京子も腰を迫り上げて応じてくる。
(く……)
すぐに切迫した。気づかぬうちに抑えていた昂ぶりがあったものか、京子と一つになっている感激からか、突き上げを堪えることができなかった。
打ち付けるように突いた。
「京子ちゃん、イク」
「葛西君!」
京子がしがみつき、私の体にがっしり脚を組んだ。
(うう……)
放出量が多い。ここ最近なかった噴き出す感覚の射精感。深い快感に翻弄され、私は京子の肉体に沈み込んでいった。


 ふたたび湯に浸かった。京子は身を委ねてくる。通り過ぎた驟雨のあとのようなしっとりとした想いが胸にある。私も京子も言葉がでない。互いの肌に触れるだけである。
(満ち足りている……)
そう感じていた。京子もきっとそう思っている。……

 浴衣を羽織った京子は下着をつけなかった。私も同じようにした。体に残る充溢感の余韻のような感覚……。
(味わっていたい……)
そんな想いがあったのだろうか。

 ワインの残りを飲んだ時も2人の空間に言葉のやり取りはなかった。ひっそりと時間が流れている。そんな平穏を感じていた。

 夜半に差し掛かっていた。
ワインもなくなり、どちらからともなく寝室に向かった。
「一緒に寝ていい?」
「うん……」

 まるで子供のように私の胸にすり寄ってくる。
「1人は淋しい……」
囁くような声。初めて弱気な言葉を聞いた。淋しい想いがこれまでの時間を占めているのだろうか。
「あったかい……」
(俺の温もりでよければ……)
抱いた肩は私をたよるように小さい。これまで誰にもたよらず強気に生きてきたのかもしれない。

 思い出の時間を超えて京子は私の胸にいる。京子はこれからの時間を生きるために私に縋ったのか。切っ掛けが欲しかったのか。理屈ではないのかもしれない。はっきりと道が決めて歩き始めるものではないのかもしれない。
(心の赴くまま……)
肩肘張らず、力まず、波に揺られてゆく。そこに私も寄り添いたい。
 私には家族がある。身勝手であろう。だが、ほんの少し、自分の時間を使いたい。そう思った。
(ひとときだけ京子だけを見つめたい……)
60年という時間……。密かなわがままが生まれる時の流れであった。

 

 

  

  
 


 


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