マリア-24
「1人を除いて?」
「私には社長さんのフェロモンが効きましたから」
「本当かい?」
「そうで無ければそんな物買って訪ねてきたりはしませんよ。お客さんにプレゼントは何度もしてきたけど、お店以外の場所でお客さんに会ったのはこれが初めてなんですから」
「ほーう。それはそれは」
「気に入って貰えましたか? 思い入れが強いとプレゼントってなかなか決められないんですよね。随分あれこれ見て迷っちゃって、結局私の好きなブランドにしちゃったんですけど」
「いやもう気に入りました、本当に」
「少し派手かしら」
「いや、派手でも地味でもネクタイみたいに人目に触れる物では無いから」
「気に入って貰えたんなら、早速全部身につけてくれませんか?」
「え? そうだね」
祐司はその場で靴下を脱いで履き替えた。派手な色柄の靴下だが、どうせズボンに隠れてしまうから構わない。ハンカチは白いハンカチしか使ったことが無いけれども、こんな風に派手な柄だと汚れが目立たなくていいかも知れないと思った。
「ブリーフも」
「え? これも?」
「ええ」
「それじゃちょっとトイレで穿き替えてくるよ」
「此処でいいですよ。社長さんの裸なら既に見てるんですから」
「しかし此処はいつお客さんが入ってくるか分からないから」
「大丈夫です。私が入ってきた時鍵を閉めてしまったから」
「え? 驚いたな。そんなことしたの?」
「ええ。だってどうせインターホンがあるじゃないですか」
「まあそうだけど」
マリアの目の前でズボンを脱いでブリーフを穿き替える羽目になってしまった。ソープランドの個室と違って事務所でズボンを脱ぐというのは随分抵抗感があるものである。脱兎のごとく穿き替えると、直ぐに又ズボンを穿いた。
「どうですか?」
「うーん。何だか小さくてあそこが締め付けられてるみたい」
「小さかったですか?」
「いや、サイズは丁度いいんだと思うけど、面積が小さくてあつらえたみたいにフィットしてるから」
「じゃ丁度いいんだわ。Tバックだから慣れないで違和感があるのね。慣れると気持ちいいわよ」
「そうだろうか?」
「ええ。私なんかTバック以外は持って無いもの」
「そうか」
「今度は2週間後の火曜日が休みになっているんだけど、その日ちょっと時間を取って貰え無いでしょうか?」
「店に来てくれってこと?」
「いえ、店は休みを取ってるんです」
「ああそうか。時間を取って何をするの?」
「私のお店を見て欲しいの」
「スナック?」
「はい」
「場所は秘密だったんじゃ無いの?」
「うーん。あのね。私社長さんが来たその日に6ヶ月先の旅行を決意して、お店にも1週間休みを申し出たんです。それがもう4ヶ月先まで迫ってるんですよね。だけど、旅行の後の予約を実はまだ入れてないんです。旅行から帰って又この仕事続けるんならもうそろそろ予約を入れ始めないといけないんですけど、どうしてもその気になれないんですよね。やっぱり社長さんの言うとおり燃え尽きちゃったのかも知れない」