マリア-22
「それで、そのソープランドの女は胸が大きいの?」
「それが大きくないんですよ。だから迷っているんです」
「それじゃ何処に惹かれてるの?」
「まあセックスが上手いって所かな」
「呆れた。セックスが上手いのは当たり前じゃないの。それが商売なんだから」
「そうなんです。やっぱり何事もプロっていうのはひと味違いますね」
「呆れた。貴方頭の医者に一度診て貰うといいわ」
「そんなにおかしなこと言ってますか? 僕は」
「おかしいの通り越して気が狂ってる」
「そうですか。それじゃやっぱり桃子さんに紹介して貰った方がいいのかな」
「私はセックスの上手い子なんて紹介出来ないわよ。セックスのプロなんてうちの教室には1人もいないんだから」
「そうですね。でもおっぱいの大きな人はいるでしょう?」
「それはいるけれども、貴方本当にそういうのがいいの?」
「ええ。セックスは下手かも知れないというんなら、その分余計おっぱいが大きくないと妥協出来ません」
「貴方ふざけてるの?」
「いいえ、真面目です。僕はおっぱいの大きいセックスの上手い女性が好きなんです」
「私の用件は無かったことにして貰うわ。どうも貴方に紹介するのは考え物だわ。相手の女性に責任が持てそうも無い気がする」
「やっぱり花の名前が5つでは駄目でしょうか」
「そういう問題では無いわ」
「それじゃ今度桃子さんが来る時までにもっと名前を仕入れておきます」
「どうぞ好きにして頂戴。私は帰ります」
祐司がソープ嬢と関わりがあって親しくなりつつあるというのは本当のことであった。マリアとは先日来2回も会っているのである。
鮮やかな色彩溢れるウンガロのワンピースを着た女性が事務所を訪ねてきたのは、2週間以上前のことだった。
「あれから全然来てくれないんですね」
「えーと、まあおかけ下さい」
祐司は時間稼ぎしながら誰だったか思い出そうとしていた。何しろ前触れ無しに突然やってきて明らかに祐司の顔を知っている様子の親しげな口を利くのである。しかし祐司の方には全然心当たりが無かった。水商売というより何処かのお嬢さん風であった。サントロペかリオの浜辺にでも立ったら素敵に似合いそうな派手なワンピースにはウンガロのロゴがあちこちプリントされていて、いくらブランドに疎い祐司でも直ぐ分かる。尤も祐司はサントロペにもリオにも行ったことは無いから、其処の浜辺に似合いそうだというのは勝手な想像に過ぎない。近頃は偽ブランドの摘発が厳しくなっているからこれ程堂々とロゴを連ねた服であれば、偽物では無いということだろう。そうだとするときっとビックリする程高い服なんだろうなと思った。誰だか思い当たらないものだから、そんなことばかり考えていた。
「まあ、おひとつお茶をどうぞ」
「ひょっとして私のこと誰だか分からないんじゃ無い?」
「えーと、何しろ飲むと直ぐ記憶がなくなる方で。それに昔から人の顔を覚えるのは苦手で」
「飲んだのは私の方だったでしょ?」
「と言うことは・・・」
なる程思い出した。この間酔いに任せて初めての店に入ったら、付いた女が呆れる程沢山飲んだ。席に来た時からいい加減酔っている様子だったのに、それから更にビールをゴクゴク水のごとく飲む。いくらビールでもこれは酔いつぶれるのは時間の問題だろうと思って良からぬ期待をしていたら、最初の酔った様子から一向に変わらない。付き合って飲んでいた祐司の方がべろんべろんになってしまい、翌日は酷い二日酔いに見まわれた。財布の減り具合を確かめると二日酔いは余計酷くなって頭痛は死にたい程だった。