マリア-21
「今何だか柄の悪い人とすれ違ったけれども、此処から出ていったんでしょう?」
「ああ、そうですけどもう来ませんから大丈夫です」
「何だったの?」
「ブローカーです。行く所が無いもんで、此処を無料の喫茶店代わりに使って毎日のように来てたんです。それで、さっき出入り禁止を申し渡したんです」
「それであんなに荒れていたのね。何か怒ったように呟いていたから怖かった」
「貴方でも怖いことがあるんですか?」
「何言ってるの。貴方私が欲求不満なんで男を虐めて喜んでいると言ったんですって?」
「さあー。そんなこと言わないと思いますよ」
「とぼけたって駄目よ。だいたい花の名前言わせただけで、何で虐めたことになるのかしら」
「いつも素敵な和服を着こなしていらっしゃいますね」
「話を逸らしたって駄目よ」
「まあもう勘弁して下さい」
「今度うちにいらっしゃい」
「倉田会長のお宅ですか?」
「何でうちが倉田会長のうちになるの? 私の生け花教室にいらっしゃいって言ってるのよ」
「いやあ、僕には白鷺草とラフレシアの区別も付きませんから、生け花なんてとてもとても」
「ふーん。あれから2つ名前を仕入れたわね。珍しいのを言えば私が知らないとでも思ってるんでしょう。お生憎様」
「知ってましたか」
「知ってるわよ。生け花教室にいらっしゃいと言ったのは、生け花教えようっていうんではないわ。未婚の女性が大勢いるから、どれかを紹介して上げようと言うのよ」
「それはそれは。折角ですけどお断りさせて頂きます」
「どうして? 誰もいないんでしょ?」
「いや、それは秘密ですけど、仮にいなくても自分で見つけますから」
「やっぱりいないんじゃないの」
「どうしてですか。今それは秘密だって言ったでしょう?」
「いればいるって言うわ。男なんて単純だからそういうこと隠しておけないのよ」
「なるほど。それじゃ確かに今はいませんけど、自分で探しますから」
「どうやって?」
「どうやってって・・・、まあいろいろ」
「どうせ飲み屋で探す以外に無いんでしょ?」
「ああ、僕は水商売の女性が好きですから」
「少しはまともだと思っていたのに、やっぱりヤクザなこと考えてるのね」
「どうしてですか? 実はソープランドの女性と少し関わりが出来て親しくなりつつあるんですけど、そういうのもヤクザなことになるんでしょうか?」
「それは水商売よりもっといけないわ。ソープランドなんてセックスする所じゃないの」
「そうです」
「貴方本当にそんな娼婦を相手にしようって考えてるの?」
「まだこの先どうなるか分からないんですけど、娼婦だから悪いってことは無いでしょう? 娼婦だっていつか誰かと結婚するんだし、その相手が僕であったとしても何も悪いことは無いと思いますよ」
「これは駄目だ。手の施しようが無い」
「いや、まだ別に彼女と親しくなっているという程でも無いんです。ただ一般論として娼婦だから駄目だっていう風には考えていないっていうことです」
「貴方は阿呆かとんまかどっちかね」
「まあ両方なんでしょうね」
「本当に」
「ところで今日は何かご用ですか。それとも又偵察ですか?」
「だからご用があって来たんじゃない」
「何の用でしょう?」
「貴方に適当な女を見繕って上げようという用で来たのよ」
「ああ、そうでしたか」
「生け花教室だって美人は大勢いるわよ」
「うーん。それより胸の大きい人はいますか?」
「胸? お乳のこと?」
「そう、胸と言ったら乳房に決まってます。まさか肺の大きな人が好きだなんていう筈が無い」
「馬鹿。貴方みたいにいい年して顔より胸だなんて言うから、一瞬何のことか分からなかったのよ」
「いい年したって男は男ですから」
「貴方ね、貴方くらいの年になったら、普通は気だてのいい子とか育ちのいい子とか、そういうのを望むもんよ。まあ外見を言うにしたって器量好しがいいって言うくらいのもんで、胸の大きい人がいいだなんていきなり言う人はいないわ」
「好きずきですから」