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マリア
【その他 官能小説】

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マリア-18

 倉田は結局桃子のことを認めはしなかったが、祐司のことをいい年しおって独身じゃないかと非難したのだから、間接的に自分にはちゃんと女がいると言ったのと同じであると思う。そうとすれば相手はあの桃子に違いない。飲めもしないのにあんな所に行きたくは無い、早く帰って寝たいというのも本音では無いと思っている。何しろあのケチな倉田が身銭を切って飲みに行くことがあるのだから。そんな際でも緊急時ヘルパーとして祐司を伴うのだが、倉田と飲みに行っても少しも面白いことは無い。
 
 事務所にはブローカーの出入りが何と言っても1番多い。ブローカーというのは一般に事務所を持たず、会社に所属しておらず、自分の会社も持っていない。従って殆どは名刺を持っていないが、中には名前と携帯電話の番号だけを書いた名刺を持っている者もいる。彼らは元手が掛からずに金儲け出来そうな話には何でも首を突っ込む。元手が掛かりそうな話には欲の張った小金持ちの素人を口説いてスポンサーにし、2人組で首を突っ込んで来る。
 彼らの話には嘘と粉飾が多くてまともに聞くことは出来ない。要は取り次ぎ・仲立ち業だから最も必要な要素は信用なのに、彼らには信用など爪の垢ほどにも無いから、その分を口先のうまさと小ずるい立ち回りでカバーするしか無いのである。しかしそれで金儲けが出来る程世間は甘く無いから、多くは一攫千金を夢見てうろちょろしてはいるが、かたわら何らかのアルバイトをしたり女に食わせて貰っていたりする。アルバイトも高利貸しの取り立ての手伝いや知り合いのスナックのおしぼりを洗濯するなどという情けない仕事が多い。まともな仕事に就く意欲をとうの昔に失っている輩なのである。
 不動産業界には千3つという言葉がある。これは千の話のうち成約に至るのはせいぜい3つくらいのものだという意味である。その伝でブローカー業を評するなら万一と言うのが適当なのでは無いだろうか。万一という言葉は、本来ある筈は無いが有ったとしても0.01パーセントくらいの確率という意味で、まあ、ある訳無いさという意味の言葉だが、ブローカー仕事の成功率というのは正にそんな程度である。だからブローカーは同時にいくつもの話に首を突っ込む。その結果1つの話に、犬の糞に群がる蠅のように何処からか沢山のブローカーが集まって群がる。いくら大勢群がろうが、話は成約に至らないからブローカー同士の深刻な争いは生じないが、万一話が成約に至ろうものなら報酬の分配を巡って熾烈なことになる。
 しかしその解決方法は実に簡単で、話がまとまるまでは多くのブローカーに自由に活動させるものの、いざまとまるとなると必要不可欠なブローカーだけと連絡を取って集まり、契約を交わしてその場で報酬を分配してしまう。つまり必要不可欠でないその他の有象無象はバッサリ切り捨てられて、それまでどれだけ動いてきたかに関わらず一銭の報酬も手にすることが出来ずに舞台の幕は降りてしまうのである。
 必要不可欠なブローカーとは、要するに買い主又は借り主と直接の繋がりがある者、売り主又は貸し主と直接の繋がりがある者、買い主又は借り主に金融を付けるスポンサーと直接の繋がりがある者の三者である。彼らを元付けと称し、元付けブローカーは誰が依頼者なのかを極秘にする。依頼者が土地所有者の場合には不動産登記簿謄本で明らかになっているが、登記簿上の名義人は前の持ち主で現在は既に変わっているのに登記簿を変更していないという場合も多い。また、そうでなくとも名義人は老人で実権は誰か別の人が握っていたり、名義人が会社の場合にはその会社の誰がその件について実権を持っているのかなどは登記簿では明らかにならない。ブローカーは土地を売ったり貸したりしたがっている所有者を見つけると、必要なら土地所有者を旅行に出して行方を分からないようにしたりする。他のブローカーと接触させない為である。旅行させる費用が出せないときは、ブローカーの実家に連れていってもてなしたりする。土地所有者は下にも置かない歓迎ぶりに感激したりするが、何と言うことは無い、誘拐された人質なのである。



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