悪友たち-2
「そうなんだ。どうりで見た顔じゃないなと思ったよ」
もう一組は、農協関係者4人。二人は見たことのない顔なので、客人か何かなのだろう。
臣吾と悟は、いつものカウンター左端に陣取った。
何も言わずとも、生ビールが出された。
いつものことなので、透もその辺は心得ていた。
まずは乾杯。二人はジョッキをカチリと合わせた。
「で、話って何よ。あらたまっての話なのか?」
ゴクリゴクリと、喉を潤してから悟が問い掛けた。
「ああ。何て言うか、その・・・・・・恥ずかしい話って言うか」
事が事だけに、臣吾も切り出しづらい。
「外で子供出来ちゃいましたとか?」
笑いながら悟が言った。
臣吾も笑いながら、無言で首を振った。
「そんなこと出来るような奴じゃないわな」
二人は保育園の頃から親友付き合いをしてきているわけだから、お互いどんな人間なのかはわかっている。
大胆なことが苦手な臣吾だから、そんな大それたことなど出来ないことは、良く分かっている。しかもそれが、女性関係となれば尚更だ。
「実は、この間祖父ちゃんに呼ばれてさ・・・・・・」
臣吾は、少し和んだ雰囲気にリラックスできたのか、本題を口にし始めた。
「ふーん」
一通り話を聞いてもらい、笑われるかと思ったが、悟は意外な反応を示した。
「笑わないのか?」
自分の中でも、馬鹿げたことなんではなかろうかという思いがあっただけに、悟の反応は想定していないものだった。
「いや、実はな、うちもそうなんだよ」
「えっ!!」
これこそ完全に想定外な一言だった。
「お前のところもか?」
聞き間違いかと思い、もう一度確認してみた。
「ああ。多分、状況的に同じだろうな」
須永家だけではなかった。元村家でも同じように、言い伝えがあったのだ。
「あのさぁ、お前の話を聞くまでは、自分の家だけのことだろうって思っていたから、特に人に話すことはしなかった。内容が内容だけに恥ずかしさもあったからさ。でも、同じ内容の話が、しかもこんな身近で起きているなんて、偶然なんかじゃないように思えるんだが・・・・・・お前はどう思う?」
確かにそうだ。善兵衛だけの企みならば、こんな近くで同じような話が存在するなんて、奇跡的な確率だ。
「ふと思ったんだが、俺たちの家族だけじゃないんじゃないかな。そう思わないか?」
悟の鋭い指摘は、臣吾も的を得ていると思った。
「確かにな。考えてみれば、うちと悟のところは、代々仲良くしてきた間柄だから、先祖を辿っていくと・・・・・・そうだ、うちのひい爺さんと、悟のひい爺さんって同い年じゃなかったかな?」
「ああ、俺も今それを思った」
お互いに、ひい爺さん同士が同級生で、仲が良かったと聞いた憶えがあった。
これは何かある。二人は直感的に思った。
「なあ、もしかして、うちらだけじゃないかもしれないと思わないか?」
悟は何か閃いたらしい。
「うん。ここら辺全部とまでは言わなくても、一部の仲間内で馬鹿話が盛り上がってなんてこともあり得るんじゃないかな?」
臣吾も、その時代の何人かが、悪ふざけとしてしたことじゃないかと思った。
「そうだな。俺もその考えに同感」
悟も頷いた。
「それだったら、大ちゃんにも聞いてみないか?あそこのひい爺さん含めた3人組が悪ガキトリオって言われていたらしいからな」
大ちゃんとは、栗原大信(くりはら だいしん)。今日子の旦那で、隣町に本店を構える地元の信用金庫に務める一つ上の先輩だ。
なるほど。この話が、どの程度の範囲の中でのことなのか、追究してみるのも面白い。
大ちゃんなら信頼できる人間だし、何より事の真相を裏付けるためには、n数が増えるほど真実味が強くなる。
「何か話が大きくなってきたな」
臣吾は苦笑いした。
「だったら、日をあらためて場を設けた方が良くない?」
「そうだね。これから呼び出すのもなぁ」
悟の提案に、臣吾も賛成だった。
「明日にでも俺の方から、大ちゃんにライン入れとくわ」
悟がセッティングをかって出てくれた。
「悪いな。俺からの頼み事なのに」
「気にしなくていいよ。カミさんが民俗学好きだからかな。俺も、この手の古い伝聞事が気になるようになってきてるんだよ」
悟の妻・久美は、高校で社会科の教師をしている。大学時代は、民俗学が専門で、一時期は民族考古学の学芸員にでもなろうとしていたぐらいだ。
「助かるよ」
「で、いつがいい?」
「みんな週末がいいんだろ?休み前のほうが」
「まあ、そうだけど。臣吾の休みはどうなんだ?週末は稼ぎ時だろう?」
「今回の件は、俺からの頼み事だから、みんなの都合がいい時で大丈夫。ただ、時間は10時過ぎになっちゃうけど」
臣吾の店は9時が閉店。片付けやら何やらで、急いでもその時間になってしまう。
「そうか。なら、今週の土曜で当たってみるか」
「場所は、ここでいいんじゃないか。透ーーー」
シンクで洗い物をしていた透を呼び出した。
「はーーーい」
タオルで手を拭きながら、透がやってきた。
「悪いんだけどさ、今度の土曜日、この場所3席、空けといてくれないかな」
「いいっすよ。また、悪巧みっすか?」
イヒヒヒと笑った。
「それと、出来れば延長して欲しいんだ。もちろん、お前の手を煩わせるようなことはしないからさ」
臣吾は、透の先輩イジリを無視し、時間が長くなることを想定し、閉店時間の延長をお願いした。
「それは、かまわないっすよ」
「悪いな」
「極悪非道な先輩方ですから、後が怖いので」
ニヒヒと笑い洗い場に戻っていった。
長い付き合いだから、お互いに悪気が無いことはわかっている。
余計なことは言わないし、余計なことは聞かない。
そんな関係が、この街の至る所で出来上がっている。