蓮と巴と黒崎-2
「そっかー、伊吹さんとまだ。」
「うん…、未だ口も聞いてくれなくて。」
すっかり定着と化した風馬君のバイト先でのお悩み相談。あたるもここ最近客足が途絶えれる閉店まじかの時間帯に足を運び、お話をしているみたいで。
「あっ、珈琲お替り良い?」
そう言って、空になったカップを差し出す。
「君これで13杯目だよ。」
「良いじゃないか、どーせお替り無料だし、勿体ないじゃないか。」
我ながらどけち根性をむき出しにする。
軽く呆れられるなか、新しい珈琲を受け取り冷めないうちに早速口にする。
「…それに飲まなきゃやってられないし。」
「一条君。」
って僕はおっさんか、酒がねぇとやってらんねーって。
焼け酒ならぬ、焼けコーヒーってなんじゃそれ。
「……未だ口聞いてないんだ、もうだいぶ経つよね、君らの夫婦漫才がさ。」
「夫婦漫才かい!」
「だってそう見えたんだもの、そして。」
その光景が日常的でとても楽しかったんだろう、それは柊さんも同じって訳ね。
「けど仕方がないよ、巴ったらいつまでも怒ってムキになって、本当に口も聞いてくれないし。」
「……。」
「大体この前の別荘の件だって、結局上手くいかなくて、もうーそれでますます距離が遠くなっちゃって…。」
僕がそう話しているのに彼は急にその場を離れ、向こうのパンの並んでるコーナーへと立ち去って行き。
「巴もあんまりだよ、そりゃー前々から強気でガサツな人とは思ってるよ、でもだからってねぇー。」
構わず口を動かし続ける。すると何かを持ってツカツカと戻ってきて。
「ねぇ聞いてる?けどさぁー待っていればきっと向こうから、むごっ!?」
すると急に僕の口に堅いフランスパンを突っ込んできて。
「んおっ?あんだおひゅうに!(うわっ?何だよ急に)」
「その口少し閉じた方が良いんじゃない?」
「え…。」
突っ込まれたパンを抜き取り、すると今度はそのパンを僕の目の前に突き出し。
「いつまでクヨクヨしてるんだって事だよっ!」
「え…。」
瞳を尖らせ、強い口調で攻めだす。
「さっきから聞いてるとまるで伊吹さん一人が悪いみたいじゃん。」
「それは、だって。」
「元はと言えば君が悪いんだろ?恋人の大事な進路話を蔑ろにしたから。」
「あれはーうう。」
「それに!待ってたって向こうから来てくれる訳ないじゃん!」
「そんな事は。」
「ならこのままで良いの?そうやって向こうから自分に声を掛けてくれるのをクヨクヨしながらさぁー。」
「うう…。」
こうなったらもう頭が上がらない、けど正論だ。
「彼女の事好き?」
「勿論、ずっと傍に居て欲しい。」
「ならこのままでいいの?ずっとお互いに顔を合わせて気まずくなってロクに口も聞かないでさぁー。」
「……。」
「きっと向こうも待ってるんじゃないかなー、君の事。」
巴が、僕を…。
明るくて少々品に欠けるけど大好きな彼女の笑みが頭に浮かぶ。
僕は意を決したが如く椅子から立ち上がり。
「…頑張ってね。」
「うん!君も。」
ありがとう風馬君。
お陰で大事な事に気づけたよ。